若者の低い投票率が政治課題となって久しい。2012年末の衆議院選挙では、20代の投票率は37.9%と、60代のちょうど半分(下図)だ。さらに、投票率の低さに加えて、少子高齢化が進む中で、若い世代の政治的な発言力は益々小さくなっており、1000兆円の政府借金など、将来に問題を先送りする政治の遠因となっている。
しかし、一方で、5年に一度実施される「世界青年意識調査」では、政治に対して関心のある若者の割合は58%という調査結果が出ており、日本は調査国の中で第一位だ。しかも、前回、前々回の調査と比べて、関心の高い層が10%前後ずつ伸びている。これは、あまり知られていない驚くべき結果だろう。いまの若者は、投票に行かない層が多いものの、政治に関心のある層はむしろ増えているのだ。
実は、若者の政治意識の実態については、サンプルデータも調査事例も少なく、明らかになっていないのが現状だ。通常の世論調査は、固定電話を利用して実施されるため、20代、30代のサンプルはどうしても少なくなってしまう。しかし、若者の投票率向上を考える上で、若者の政治意識をきちんと把握する必要がある。
2012年の衆院選で、日本政治.comが公開した「投票マッチング」は、全利用者の90%(約43万人)が、10〜40代。若年層の特徴を検証するには、十分な回答が集まった。その解析データの中から得られた興味深い結果を紹介したい。
インターネット、特に2chやニコニコ動画など、若者に人気のウェブサイトでは、やや保守・右傾向が見られるが、そうした若年層の特徴は、今回の投票マッチングの結果にも表れていた。特に、支持政党を自由民主党と答えたユーザーは、 若い世代ほど多くなっており、年代と支持政党には明らかな相関関係が見られる。もともと、投票マッチング利用者は、無党派層が多く、10〜40代の各世代、シニア層のいずれでも、「支持政党なし」と答えた利用者が60%程度を占めているが、下記の結果は大変興味深い。
参考までに、実際の選挙における各政党の獲得票数も掲載する。投票マッチング利用者全体の結果と、比例区における政党得票率のの結果はほぼ一致しており、データの信頼性には一定の裏付けができる。特に、安倍首相は、2013年4月に「ネット選挙は自民に有利」と述べていたが、ネット選挙解禁で投票率向上が見込まれる若者の得票を見越した発言だったと云える。
では、世代ごとに、支持政党に差があることは明らかになったが、もう少し具体的に見ていきたい。若年層はそれぞれの政治テーマに対して、どのような考えを持っているのだろうか。
今回データ解析に利用した投票マッチングには、「日米同盟を維持すべきであるか」という設問があった。実に75%のユーザーが「賛成」と回答したが、支持政党を日本共産党と答えたユーザーに関して、この設問を見てみると驚くべき結果が出ている。
日本共産党といえば、日米安全保障条約の廃棄と非同盟が大きな特徴であり、 政党としても明確に反対を打ち出してきた。しかし、日本共産党の若い支持者に限ってみれば、「賛成」、「反対」、「中立」がバランスよく分かれている状況だ。これは、広く知られている政治意識の「通説」が、時代とともに変わりつつあることを示している。
投票マッチングのデータから、全体としては、若年層の政治に対する考え方として、3つの大きな特徴が見られた。ひとつめは、年金やマイナンバーなど、大胆な社会保障改革に対する強い支持だ。現行制度では、若い世代が大きな不利益を被っているとの認識が浸透している。
2つめは、尖閣諸島、外国人参政権などに関する設問から見られる、タカ派的な外交姿勢だ。これらの設問はいずれも賛成・反対倍率(賛成総数と反対総数の倍率)が圧倒的に高く、世間に認知されている若年層の政治意識を裏付けるデータが出ている。
そして、3つめは、議員定数削減や、政治献金廃止などの政治・行政改革だ。ただし、政治・行政改革に関しては、若者に限らず、どの年代の有権者に対しても、同じような結果が得られている。
これらの傾向を踏まえると、2012年末の衆議院選挙の結果もある程度説明できる。躍進した政党が掲げる政策は、上記3つとの共通点も多かった。
以上、若者の政治意識について解説してきたが、さらに詳しく知りたい方は、こちらのPDFファイルを参照してほしい。若年層の政治意識は、常に変化しており、日本政治.comとして今後も調査を続けていきたい。