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知っておきたい子ども虐待問題

【子ども虐待の現状】

「所在不明児」ということばをご存知だろうか。行政が居場所・生活を把握できていない子どものことを指している[1]。2014年5月、5歳の男の子の遺体が、7年もの間放置され、白骨遺体として発見されるという痛ましい事件が起きた[2]。こうした事件を受け、2014年11月、全国22都道府県で141名の子どもが所在不明であり、うち4名は虐待のリスクがあるという発表が、厚生労働省からなされた[3]

 

所在不明児は子ども虐待と密接に関係している。3歳児健診を受けていなかった、小学校に入学しなかった、住所地に住んでいない――虐待を受けている(受けていた)ためにこのような「子どもが見えない」状況が起っている場合がある。子ども虐待の相談件数は年々増加しており、平成25年は73,765件と過去最多を記録した[4]。また、平成25年3月までの1年間に子ども虐待で死亡した子どもは90名であった。厚生労働省は、死亡事例に関する報告の中で、今後死亡事例を防ぐための留意点として、子どもの所在がわからない、対面ができないことを挙げている[5]

 

子どもの命と生活を守ることは、大人の責任である。社会の見守りがあれば助けることができた命を「無視」しないために、今、社会全体の支援体制の変容が求められている。

 

【望まれる対策】

・対策1:社会的コストを「ものさし」にして日本の虐待対応予算を考えよう

 日本では、子ども虐待の影響による2012年の社会的な損失コストは、かなり少なく見積もって1.6兆円になると言われている[6]。この金額は、2011年における東日本大震災の福島県の被害額1.9兆円とほぼ同じと報告されている。北米では、子育て支援や虐待対応に1ドルかければ、その後に問題となる児童思春期の問題を防ぐ効果として約7ドル以上[7]の費用対効果があると言われている[8][9][10]。日本より虐待対応のシステムが30年進み、より早い段階で介入を行っているアメリカでは、虐待対応にかかる早期介入策・支援やケアを含めた経済的費用は2012年で少なくとも5兆8千億円と試算されている[11]

 しかしながら、我が国ではその統計値をまとめるための児童相談所・市区町村・警察の共通データベース自体が存在しない。客観的なデータ無くして、具体的目標値を決めていくことは難しい。まずは、データベースを設置し、問題を具体的な数字からも把握することが大切である。

 

・対策2:多機関連携によるチームで費用対効果を高めよう 

 問題の一つとして、子ども虐待に関わる厚生労働省、文部科学省、総務省、法務省、警察庁、そしてハーグ条約により関わり始めた外務省を含め、まだまだ省庁間の垣根が高く、うまく多機関連携ができていないことが挙げられる。そのため、情報共有についても機関間の協定がなく、各機関だけで対応している。その結果、被害を受けた子どもは、つらかった話を、学校の教師や市区町村のケースワーカー、児童相談所の児童福祉司、警察官・検察官などに何度も繰り返し話さなければならない。これは子どもにとって非常に負担であり、そのストレスによって被害内容を撤回してしまうことも少なくない。子どもの被害を聞くときには一回で全ての情報共有をすること、この効率性を多機関連携の具体的基準と考えていくことが先進国でのグローバルスタンダードである。

 このような多機関連携がチームとして機能すると、子どもの負担を減らすだけでなく、虐待対応のコストも36%カットできると言われている[12]。日本でも支援や見守りのために要保護児童地域対策協議会という連携があるが、ここに警察が入ることはほとんどない。司法も含めた多機関連携を介入段階から形にしていく必要がある。

 

・望まれる対策の実現方法

 欧米でも、以前は今の日本と同様に各省庁間が縦割りで、うまく連携ができなかったそうだ。しかしながら、30年前にデータベースを創設し、しつけのための体罰=暴力と指針を決め、警察・検察が連携したところ、8年経ったところでしつけ論争は社会で終了し、また虐待の数が統計的に減ってきたと言われている[13][14]。日本の子ども虐待状況を改善し子どもの安全を守っていくには、支援者の質だけでなく、まず支援者の量と予算を確保した上で、機関間の壁を越えて情報共有できるような多機関連携システムを構築することが欠かせない。そのためには、きちんと費用対効果を検証していくことも求められる。

 

【各党のスタンス】

雇用や子育て支援等他分野の政策とも関連するため一概には言えないものの、子ども虐待予防について直接言及があるかどうかは、各党によってスタンスが異なっている。

 

①具体的な提言あり(公明党、社民党、共産党)

公明党、社民党、共産党は児童相談所の職員拡充を主張している。共産党は更に児童養護施設や里親制度の拡充など具体的な施策を掲げている。

 

②言及あり(自民党、民主党)

自民党は「早期発見や増加への対応」、民主党は「さらなる検討」と総論的だが対応に触れている。

 

③言及なし(維新の党、次世代の党、生活の党)

維新の党、次世代の党、生活の党は虐待予防について言及していない。

 



[1]キャンペーン · 所在不明児童ゼロの社会を目指します! · Change.org

 http://goo.gl/P8lB0I

[2]厚木・男児遺棄致死:遺体を7年放置 父親逮捕 児相は不就学通報せず - 神奈川新聞http://goo.gl/QEvYND

[3]所在不明児なお141人 10月時点、4人は虐待の恐れ ‐ 日本経済新聞記事http://www.nikkei.com/article/DGXLZO79632190T11C14A1CC0000/

[4]児童相談所での児童虐待相談対応件数-厚生労働省

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000053235.pdf

[5]子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第10次報告)の概要

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000058504.pdf

[6] Wada, I., & Igarashi, A. (2014). The social costs of child abuse in Japan. Children and Youth Services Review. doi:10.1016/j.childyouth.2014.08.002

[7] ※各研究で、比率にして1.8ドルから17ドルまでの範囲あり:ただし1ドルを切る研究結果は見当たらない。

[8] Canada, M. H. C. O. (2013). Making the Case for Investing in Mental Health in Canada (pp. 1–28). Retrieved from http://www.mentalhealthcommission.ca/English/document/5210/making-case-investing-mental-health-canada-backgrounder-key-facts

[9] Frede, E., Barnett, W. S., & Ackerman, D. J. (2006). NIEER Increasing the Effectiveness of Preschool Programs.

[10] Prentice, S. (2009). Beyond Child’s Play (Vol. 3, pp. 237–244).

[11] Fang, X., Brown, D. S., Florence, C., & Mercy, J. A. (2012). The Economic Burden of Child Maltreatment in the United States And Implications for Prevention. Child Abuse & Neglect, 36(2), 156–165. doi:10.1016/j.chiabu.2011.10.006.The

[12] Shadoin.A.L., Magnuson, S. ., Overman, L. B., Formby, J. P., & Shao, L. (2006). Cost-Benefit Analysis of Community Responses to Child Maltreatment :A Comparison of Communities With and Without Child Advocacy Centers. (Research Report No. 06-3). Huntsville, AL: National Children’s Advocacy Center. To.

[13] Finkelhor, D., & Jones, L. (2012). Trends in child maltreatment. Lancet, 379(9831), 2048–9; author reply 2049. doi:10.1016/S0140-6736(12)60888-5

[14] Gilbert, R., Fluke, J., O’Donnell, M., Gonzalez-Izquierdo, A., Brownell, M., Gulliver, P., … Sidebotham, P. (2012). Child maltreatment: variation in trends and policies in six developed countries. Lancet, 379(9817), 758–72. doi:10.1016/S0140-6736(11)61087-8

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