私は、警察庁の上級職(一種)出身です。2001年小泉内閣が発足した際に総理秘書官に就任しました。当時は財務省・経済産業省・外務省・警察庁の4省庁から1人ずつ秘書官を出しており、私は警察庁の代表です。当初は小泉さんとの面識すらなかったのですが、総理や官邸の警備関係をはじめ、防衛省・法務省・気象庁・消防庁・海上保安庁などが管轄する国の危機管理全般を担当しました。在任中の4年半の間には同時多発テロやイラク戦争もあり、国の危機管理に関する総理の答弁を計2000本ほど書きました。
こうした中、2005年に郵政解散選挙を行うことになりました。私の父親は山梨県出身なのですが、解散時に山梨県の選挙区の自民党候補は全て郵政造反組でした。実質的に空白区となる状況を見るに見かねた私は、官僚の身分を捨て、急遽出馬を決めたのです。
出馬を決めた金曜日の朝には、「今夜は家でご飯を食べる」、と妻に伝えて家を出たのですが、夕方に自民党から出馬を決断しました。小泉首相(当時)は私の出馬を聞くと、「そこまで僕に付き合わなくていいよ」と言われました。しかし私は、それまでの首相の答弁は単なる仕事のためではなく自分でも正しいと思うことを書いてきましたし、それらが身内の造反で実現しないという事態は不本意です、と出馬の意を伝えました。
自民党新人議員の時代には、「83会」の幹事役を務めるなど、若手のとりまとめ役をしていました。自民党の改革派として「税金の無駄遣いを一円たりとも許さない若手の会」の代表を務めたりもしました。
しかし、2009年の政権交代選挙で落選しました。選挙で残った自民党議員は、保守的な議員ばかりになっていました。私は2009年暮れから2010年初頭にかけて離党し、無所属になりました。
みんなの党の渡辺喜美代表から電話がかかってきたのはそのような折です。実は私は麻生政権時の定額給付金法案に反対し、与党でありながら唯一議場を退場した議員でした。この件では自民党から戒告処分も受けたわけですが、その心意気を評価した渡辺さんから、みんなの党に誘われたのです。2010年1月末に入党し、参議院議員選挙に出馬して当選を果たしました。
自民党新人議員のときは若い議員のとりまとめ役などが中心でしたが、参議院議員になってからは予算委員会の質問に17回立っています。みんなの党の切り込み隊長として、2年8ヶ月の間に仙谷官房長官、菅総理、野田総理(いずれも当時)など多くの閣僚と応酬を重ねてきました。
また、これまでに議員立法案を9本発議しました。参議院では11人以上いないと単独で法案を提出できないのですが、同一会派で11人以上なのは自民党、民主党、みんなの党と公明党だけです。個人で9本発議というのはとても多い方になります。
最近提出したのは、通学路の安全確保に関する法案です。京都府亀岡市の通学路での交通事故を受けて取り組んできました。公立小学校の学区域ごとに、市町村長を議長として学校代表または教育委員会・警察・道路管理者・保護者代表・町内会代表の6者協議会を開き、通学路安全について議論することを提案しています。現時点では、指定された通学路がもともと危険なところもたくさんあるのです。通学路を決める際には、交通量や街燈の数、不審者の出没など、様々なことを考慮する必要があります。6者会合でハザードマップを作るなどして、通学路の安全確保を図るべきです。
現在10本目として出そうとしている法案は、海外で犯罪にあった日本人被害者にも犯罪被害者給付制度を適用する、というものです。
そもそも、与党議員は議員立法をしません。新人議員も意見を言ったりはしますが、党から見ると採決要員としての意味が大きいのです。また、与党・野党を問わず衆議院はいつ解散になるとも分からないため、立法の途中で解散することもしばしばですし、再選のためには選挙区での活動が中心になりがちです。
これに対し参議院議員は通常6年の任期ですから、腰を据えて議員立法に取り組めます。さらに私は全国区の比例代表制選出なので、地元の利益のためだけでなく、例えば京都の事故のためにも働けるのです。
私は、生け花でいうところの四方見(しほうみ)の政治家を自称しています。床の間の花のように一側面だけでなくぐるりと四方から見る生け花のことを四方見といいますが、私も官僚・官邸・与党・野党・衆議院・参議院・当選・落選と、様々な角度からものごとを見てきました。これらを経験してきて、避けて通れないと思うのは、国の危機管理の問題です。
危機管理問題は官僚の最高機密として隠されがちですが、政治家は国民への公開、透明性を追求していく必要があります。官僚に任せておいては、失敗しても隠されて終わる可能性が高くなります。
そもそも官僚による行政は、平時に誰がやっても同じ結果になるよう、法律に基づきマニュアル化されているものです。これは危機状況下では通用しません。緊急時には、その場に応じて人間が決めていかなくてはならないのです。国の利益のためには、ある一部がおろそかになっても断行しなくてはいけないこともあります。しかしお役人は規則から少しでも外れたことはできないため、政治家がやっていくしかないのです。「責任は自分がとるから、やる」と言えるのは政治家です。
たとえば北朝鮮が弾道ミサイル発射に失敗した事件では、官僚が確認する前に失敗に言及した田中防衛大臣(当時)の言動に対する批判があがりました。しかし、あれは政治家としては正しい振る舞いだったと私は考えます。緊急時に政治責任をとりつつマニュアルを破ることができるのは、政治家なのです。
政治家が重大な役割を持つ危機管理の見地からは、小泉政権以降1~2年ごとに総理大臣が交代している事態は大きな問題です。以前の反省が活かされにくい上、もとから危機管理業務に携わっている官僚の言いなりになりがちです。たとえば尖閣諸島に関するビデオ問題では、菅内閣(当時)は、那覇地検が拒むので公開しない、という立場でした。法律による行政をしました、と事務方への責任転嫁をしているのです。
このように、政治家が政治責任をとれていない状態が続いています。しかし衆議院と参議院合わせて722人の議員がいる中で、政治家としての危機管理意識を持っている人はごくわずかで、総理や一部の大臣くらいでしょう。危機管理について反省点を持っている人も、一・二年で内閣が変わってしまうため反省が活かされないまま終わります。
小泉内閣の時、金正男(金正日の息子)と見られる人物がドミニカ旅券で日本に入国しようとする問題が起こりました。このとき、小泉首相は外務省、法務省、警察庁と連携して判断し、迷ったときは自分に言うこと、という指示を出しました。
この結果入管局長から届いた判断は、金正日の息子か否か、そしてドミニカの旅券が偽造か否かを調べずに返す、というものでした。私は、それはおかしい、と反論しました。すると小泉首相は「内閣総理大臣である自分(総理)が判断した」ということにすればよいか、と聞かれたのです。私は、それならよいでしょう、と返事しました。政治家である小泉首相が責任を取ることになるからです。この事件について公表されたクロノロジーでは、内閣が判断したことになっています。
残念ながらこのように政治責任をとる政治家は大変少ないです。原発問題に対処していた枝野官房長官にしても、「直ちに健康上の心配はありませんが、念のため」という官僚による文章を読み続けていました。パニックが起こるのを懸念して、ということでしたが、あの時は実際にカタストロフィーが起こっていたわけです。しかし無秩序が一番悪い、という官僚の考え方で進めた結果でした。震災や原発事故については、官僚の想定にはない、だから政治家がやる、という態度を取るべきだったと思います。
先日のアルジェリア事件にしても、安倍首相への第一報はハノイに着く前に入っていました。これに対して首相は「人命第一に対応してほしい」とだけアルジェリアに伝え、事件後4日間は東南アジア訪問を続けました。最後の半日分を短くしただけです。私がこの件について国会で追及すると、訪問国や外務省の多大な準備のもとに成り立つ訪問を中断すれば「テロに屈したことになる」、と答弁されました。しかしあの事件で助かった人の証言によると、犠牲者の大半はアルジェリア軍に撃たれたそうです。アルジェリア政府は、テロ組織との交渉というやっかいな仕事をやりたがらず、早期鎮圧という政策をとったのです。「人命第一」などとは考えていません。日本の意向は先方に伝わっていませんでした。この件も、政府に危機管理の意識が足りないことに問題があります。たしかに外交プログラムは前々から準備されてきて、中止すれば相手にも迷惑がかかります。しかし、実際にテロで日本人が亡くなっているのです。今回の事件は人が亡くなっているから、ということで安倍首相の責任について口を閉ざす風潮があります。しかし今後のことを考えると、もっと責任追及するべきです。
みんなの党は、官僚政治の打破を掲げています。私は官僚出身だからこそ、官僚の限界も分かっています。「官僚政治の打破」と言うと、官僚は有能で有力だから、彼らに支配させてはいけない、という論調が主流です。しかし、官僚の限界をくみとり政治家が補っていくという面でも、官僚政治の打破が必要です。官僚は出過ぎるな、という面と、官僚にできないのだから官僚に任せられない、という面があるのです。官僚のせいにしてはいけない部分、すなわち政治家が負うべき責任について、多くの政治家の理解が不十分であることを不安に感じます。一方自民党議員は官僚出身者が多いので官僚への理解も深いのですが、逆にくっつきすぎていて問題です。私は、どのような政権になっても政治家と官僚が一定の距離感を保てるような仕組みづくりに貢献していきたい、と考えています。