相続税は課税対象が狭く、現在支払っている人の割合は4%に過ぎず、税収では1.5兆円弱となっている[1]。バブル期直後の平成4年には3兆円近くまで達したがその後対象の縮小と共に減少傾向が続いている。被相続人として課税対象者になっているのが5万人程度となっており、その中では平成23年度においては1億円から2億円の範囲の相続を受けた人が2万4千人程度で一番多い[2]。
相続税の増税が2013年度の税制改正の一環として決定し、2015年1月から相続財産の6億円を超える部分に対しては55%という最高税率が設定されることになった[3]。また、基礎控除の減額も行われ、現行より4割減少する(3000万円+600万円×法定相続人数)。
祖父母が金融機関に子・孫名義の口座等を開設し、教育資金を一括して拠出した場合、この資金に対しては1500万円までは非課税とする制度が2013年4月からの3年間の時限措置としてとられた。相続税増税とセットとすることで増税を着実に実行させるために導入されたとも指摘される[5]。また、裕福な家庭の優遇である、線引きが曖昧だなどという批判も存在する。
今回の相続税増税は所得税増税とセットで行われ、富裕層課税と呼ばれ、富裕層に対してのみ影響のある増税となっている。消費税増税によって税の逆進性が叫ばれる中でバランスをとる役割もある。ここでは近年の相続税率の変遷と富裕層増税の是非についての様々な意見を見ていく。
まず、相続税率は軽減の動きが続いていた。昭和63年には5億円以上は75%の相続税が課せられていたが昭和63年、平成4年、平成6年、平成15年の4回の改正で徐々に対象が縮小し、平成6年の時点では20億円以上への70%が最大となり、さらに平成15年に小泉政権下で大規模な削減が行われ、3億円以上に対する50%が最大となった。ここでは最大の値のみ説明したが、その前の段階も累進的になっており、ここの値も徐々に引き下げられていった。従って、今回6億円以上に対して55%という形での増税となるが平成15年以上の水準に比べればまだまだ低いことになる。一方で海外と比較すると、相続税を課していない国もオーストラリア、スイスを始め20か国ほど存在する。それに対してアメリカ、EUなどでは相続税増税の動きも見られる。
では次に日本での動きを見ていこう。まず相続税増税に対する世論の支持は3分の2程度に達する[6]。その主な論拠としては第一にもてる者からとるべきというものである。いずれにせよ財政健全化の必要性があり増税は不可避である以上、誰からまず取るべきかと考えたら持てる人からまず取るべきだという議論である。第二に貧富の差拡大への対応というものがある。近年所得格差は拡大している(「経済格差」の記事参照)状況にあり、それに対応する必要があるという議論である。
それに対して、反対派は意欲を失わせる恐れを主張する。お金持ちになっても結局多くの財産を社会に還元する必要があるのであればお金持ちになるインセンティブが弱まり、社会にとって結局マイナスであるとする。また、財政再建への効果は大きくないという主張もある。増税に伴う増収効果は年590億円程度と試算されており、財政健全化に必要な規模に比べるとあまりにも小さく財政健全化のためにという論理は成り立ちづらいという主張する[7]。更には大前研一は富裕層はそもそも逃れ方うまいから効果薄いと指摘する。基準額があればそこに収まるように時期をずらす、あるいは空量ではなく、ゴルフ会員権の形式にするなどの対策は容易だと指摘する[8]。また、所得税や相続税を挙げると優秀な人材が海外に流出するという懸念も存在する。一方でこれに対しては日本では依然として地理的、言語的ハードルは高く海外流出は欧米ほど起きづらいという指摘もある[9]。
このように増税への賛否両論が存在するが、財政健全化や経済再生という大きな目標を前にして他の税制や政策との組み合わせの中でしっかりと議論を深めていく必要がある。
各政党ともあまり言及は見られず、言及が見られた政党でも方向性に大きな差異はない。
マニフェストではっきりと相続税増税の方向性を打ち出したのは社民党と公明党のみだった。ともに最高税率の引き上げ、基礎控除の引き下げを主張している(社民党の方が明示の度合いは強い)。
また自民党と民主党も公明党を含めた3党合意で増税を進めており、この立場と考えられる。
他の党は言及はなかった。