現在少子化が進んでおり、2010年の段階では合計特殊出生率は1.39である。1947-1949年の第1時ベビーブーム時の4.32、1971-1974年の第2次ベビーブーム時の2.14と比べると減少していることは明確だ[1]。この数字は、スウェーデンの1.94、フランスの2.00と比べても低い数値である。[2]
少子化の進行はなぜ問題なのだろうか。まず、女性が「生みたくても生めない」状況下にあれば女性ないしは家族の幸福追求権を侵害する点で問題である。そして、日本においては経済的活力が2つの理由で低下することが指摘されている。第一に、将来の労働力が減少する。例えば、内閣府は2030年までに労働力人口が1000万人以上減少すると推定している[4]。第二に、高齢化が進んでいるため高齢者のための社会保障、医療保険の負担が増加するのだ。2005年と比べ、2025年には2倍以上の社会保障給付費がかかるとされている[5]。さらには、過疎化のさらなる進行なども懸念されている。
では、なぜ少子化は進んでいるのだろうか。単純に、子育ての負担が様々な観点から大きいことが理由である。まず、育児休暇をとりづらいことや保育施設が少ないことから女性は仕事を辞めることを余儀なくされる傾向がある。事実、「待機児童」(仕事や病気等の理由で、家庭で保育ができず、認可の保育所に申し込んだが定員がいっぱいで入所ができない場合の子ども[6])はおよそ25000人存在する[7]。こうした状況下において女性は、「子育てをするか、キャリアをとるか」という選択を強いられるのだ。また、特に第二子以降は夫婦の家事・育児の負担の分担の不安や、教育費の負担等が原因として挙げられている[8]。これらが進行している理由として、若者の失業率の増大や、核家族化・都市化に伴う家庭の養育力の低下(親族や近隣から得られた支援が少ないこと)等が指摘されている。[9]
では、少子化に歯止めをかけるにはどのような対策が必要なのだろうか。前述したように「子育ての負担」が大きい以上子育ての負担を軽減するような仕組みが必要だが、海外ではどのような制度が導入されたのだろうか。
まず、金銭的な負担軽減が考えられる。例えばフランスにおいては20歳になるまでの様々な手当が手厚い。例えば、妊娠・出産の無償化や、3人の子どもを9年間養育した男女に年金を10%加算すること等を行ない、1994年に1.65だった出生率が2002年には1.88に回復させた。[10]イギリスにおいては出産費用、医療費が無償で提供され、さらにはChild Trust Fundという子ども専用の非課税貯蓄プラン等も導入されている。[11]
次に、育児休業制度の充実が考えられる。スウェーデンにおいては「両親保険」として休業直前の8割の所得を1年半にわたり保障している[12]。この成果もあって、子どもを出産した7割以上の女性が1年以上の育児休暇を取得している。なお、事実婚の子や非嫡出子等も他の子どものように扱われていることも、様々なバックグラウンド下で子育てがしやすい一因である。[13]
そして、上記と関連し男女共同参画を推し進めることが必要だとされている。女性が育児休暇をとりやすくするのはもちろん、男性も出産・育児に協力しやすい環境づくりの必要性が指摘されている。具体的には、男性の育児休暇の促進等が求められている。
では、日本では既にどのような対策がとられているのだろうか。例えば、「待機児童」の対策の一環として横浜市の成功例がある。横浜市は最高で1552人で全国の自治体ワースト1だった待機児童を179に減少させることに成功した。具体的には、保育所整備援助額の増額、保育コンシェルジュ(保育サービス[14]に関する相談の専門家)の設置、NPO法人等を活用した家庭的保育の促進等を行なった。
なお、今まで主に「日本人で少子化対策を考える」枠組みで論じてきたが、移民の受け入れ拡大もオプションとして議論されている。事実、2010年に中川少子化対策担当大臣が人口減少のため必要だという考えを示した。しかし、現在の女性の「生みたいが生めない人」の権利向上は損なわれるという指摘や、移民受け入れによる摩擦等を懸念する声もある。
どの党も少子化対策は、育児負担の軽減・待機児童の削減・女性の社会参加の容易さの向上をもとに行なおうとしているため、大きな差異はない。例えば、自民党・民主党・共産党・社民党は育児負担の軽減や待機児童の削減を謳っている。しいて差をだすとすると、公明党はこれらに加え、不妊治療への支援や用事教育の無償化も行なうとしている。