元々、地方自治体は担う仕事の大部分が国の事務であった時代が長く、実施主体ではあるが実質的な決定権を中央官庁が握っている場合が多かった。これに対して地方分権を推進する機運が1990年代から高まり、機関委任事務が廃止され、国の関与の在り方が見直されるなど、地方の裁量が広がる方向での改革が進んできた。しかし、依然として地方の行政は「国を見て」仕事しており、まだまだ地方の独自性は弱いという指摘も多い。
国税と地方税の租税総額に占める地方税の割合は4割であるのに対し、国と自治体の歳出合計に占める自治体の歳出の割合は6割に達する。この差分は国からの地方交付税交付金、国庫補助負担金などの財政移転によって成り立っていた[1]。しかし、この財政移転、特に使途が限定される国庫補助負担金は国の各省庁が政策の内容を誘導、実質的に決定する上で重要な手段となり、地方の裁量を実質的に制限する重要要因となってきた。自治体が行う業務は自治体の税制で行うことによって「自ら決定し自ら責任を持つ体制を作る」ことが三位一体改革の重要な目標の一つとなっている[2]。
国の業務範囲を、国家の存続に関わるもの、全国統一の基準が望ましいもの、全国的な規模の視点で見た方がいいものなどに集中し、個人と向き合うものは出来る限り身近な基礎自治体が行った方がいいとする見方がある。また東京への一極集中の打破、ナショナルミニマムは達成したため国が統一の基準を作って推進するべき時代は終わったこと、地方における一体的な行政の必要性の高まりなどが主張されている。
一方で地方分権が不要であるとする議論としては、一部には地方が主導した立法も存在するが大半の法律は国の法律に準拠するなど独自性に乏しく、また国地方係争処理委員会がほぼ利用されないなど地方自治体の立案能力、立法への意欲が乏しいという主張、地方ごとに特色のある政策がなされるとされるがはたしてそこまで差異があるのかという疑問や、地域ごとに独立性が高まれば地方への財政の調整などは難しくなり、より東京への一極集中が進みやすいなどの議論がある。
自民党は日本維新の会などとの協力のもと、道州制基本法案を今国会中にも提出することを目指すなど、道州制に向けた動きが活発化している。基本法案では道州制に向けた道州制国民会議を設置し、5年後をめどに必要な法整備を行うことなどが盛り込まれる見込みで、県が廃止され、国の役割を全国的に統一的定めが必要なことに限定するなど、行政のあり方を大きく変えうる法案となっている[3]。
高度経済成長期は中央集権による画一的な発展が効率的であるという見方が主流であったが、新自由主義的な改革の流れやNPMなどの流行の中で1990年代に入り地方分権への改革の流れが活発化し、自民党下野とともに本格化した[4]。当時中心となって改革を進めた地方分権推進委員会が作成した中間報告には、地方分権を進める理由として「中央集権型行政システムの制度疲労」、「変動する国際社会への対応」、「東京一極集中の是正」、「個性豊かな地域社会の形成」、「高齢社会・少子化社会への対応」の五点を挙げられている[5]。そして目的として「全国画一の統一性と公平性を過度に重視してきた旧来の「中央省庁主導の縦割りの画一行政システム」を、地域社会の多様な個性を尊重する「住民主導の個性的で総合的な行政システム」に変革すること」と述べている。
この結果行われた第一次の改革では機関委任事務が廃止され、地方の担う事務は自治事務と法定受託事務という形に再構成された。機関委任事務は国の事務でありながら地方自治体を手足として自由に用いていたが、現在は地方の担当する事務は全て形式的には地方の所轄の事務となり、法律によって定める必要があり、地方の裁量なども拡大したとされる。また、同時に国の関与の在り方が見直され、法律に基づかない関与は認めない法定主義の原則が設けられ、過度に微細な規定を禁止する一般法主義の原則、関与の透明性を確保することなどがルール化された。さらに必置規制と呼ばれる職員や施設を必ず設置する必要があることを規定することの禁止が図られ、国の過剰な関与が抑制された。さらに国地方係争処理委員会が設置された[6]。これらにより地方の権限は大きく拡大はしたものの、一方でこの第一次の改革は当事者が当時から「未完の分権改革」と呼んだように、改正の容易な部分から進めたものであり、更なる改革が求められた。
この後の改革としては小泉政権下での三位一体の改革が挙げられる。国庫補助負担金の廃止・縮減、税財源の移譲、地方交付税の一体的な見直しの三本を柱とする改革であり、地方関係を巡る財政の一体的な改革を試みた。財源を確保したい財務省、地方交付税を守りたい総務省、影響力を残すため補助負担金を残したい事業官庁の対立の中で国庫負担金4.7兆円削減、地方交付税5.1兆円削減、3兆円の財源移譲という形の決着を見た。
これらの改革を経ても依然として改革の動きは継続しており、日本維新の会などが大規模な地方への権限移譲を主張している。
各党、地方分権に対しては促進するとは述べているが、その推進度合に大きな差異が存在する。
日本維新の会は「中央集権国家から地方分権国家へ」、「自治体の自立・責任・切磋琢磨」を8作の第1項の最初に掲げており、強く分権を押し出している[7]。
みんなの党は消費税の地方税化、交付税の廃止などの大規模な改革を掲げる[8]。生活の党も権限委譲と財政改革による大規模な改革を謳う[9]。公明党も道州制導入を謳うがさほど具体性には乏しい。
民主党、自民党は地方分権を進める姿勢を示しているものの維新などの改革案に比べると漸進的な改革を主張している。自民党は道州制基本法案を提出に向けて動いてはいるもののマニフェストでの記述は慎重なものも多い。また民主党は一括交付金、自民党は省別交付金など、両党間でも差異は存在する[10]。