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経済格差

1.ポイント解説

① 1世帯の平均所得は538万円だが、約半数の家庭は年収400万円以下。

平成23年度の調査では、日本の世帯当たりの平均所得は538万円となっている。しかし、平均所得以下の家庭の割合は61.2%であり、特に、所得が400万円以下の家庭は46%と半数に近い。一方、所得が1000万円を超える世帯も約12%存在する。また、世帯主が50~59歳の家庭と29歳以下の家庭の平均年収を比較すると、50~59歳では714万1000円である一方、29歳以下では314万6000円となっている。これらのデータから、世帯、そして世代によって大きな所得格差があるという現状が分かる。

 

② 女性の平均所得は男性の約70%と、男女間で大きな賃金格差がある。

 厚生労働省の調査によると、日本は男女間で約30%の賃金格差が存在する男女間で大きな賃金格差が生じている原因としては、専門的な管理職に就く女性の数が少ないこと、低賃金とされる非正規労働者の約70%を女性が担っていることが挙げられる。また、OECDの調査によれば、日本の男女間の賃金格差はOECD諸国の中でも2番目に大きく、男女間の賃金格差を是正する必要性がある。

 

③小さな政府のもと自由競争で「頑張った」人が報われる社会を目指すか。

 民間で供給可能なサービス・財、市場に関する政府の介入を最小限に抑える「新自由主義」を唱える小さな政府のもとでは、「頑張った」人が努力に応じて報酬を得ることができる。社会的弱者に対しては、セーフティネットとして低負担・低福祉の原則に基づいて、最低生活保障を行い、格差の固定化を防ぐことを目指す。

 

④大きな政府のもと社会保障と福祉の拡充で格差の小さい社会を目指すか。

 政府の市場への介入を強化して高負担・高福祉を掲げる大きな政府のもとでは、高所得者に対して相応の負担を求め、その分を低所得者に還元することで格差を小さくすることができる。また、社会保障を拡充することで、所得や雇用を安定させることを目指す。

 

2. 詳しく知りたい人に

 日本は高度経済成長期以降、「一億総中流」というように国民の約9割が「中流意識」を持っていたが、2000年代以降の規制緩和や市場主義の徹底等により、今日では国民の6~7割が「格差が拡大している」と考えており、「格差社会」と言われるようになった。

「日本の所得不平等度の推移」内閣府経済社会総合研究所より引用
 

 社会における所得分配の不平等さを測る指標として、ジニ係数が知られている。ジニ係数の範囲は0から1で、数値が0に近いほど格差を少ない状態、1に近いほど格差を大きい状態であることを示す。複数のデータからジニ係数を計測した図を見ると、どのデータにおいても日本のジニ係数は年々、上昇していることが分かる。このような所得格差が拡大してきた背景には、所得格差が高年齢になるほど拡大する傾向の中で日本の人口が高齢化したこと、そして、特に若年層において、低賃金の非正規雇用者の増加によって労働市場が二極化したことがある。4 また、経済学者の池田信夫氏は、ITに代表される技術革新とグローバル化による競争によって、日本だけではなく世界的に経済格差が拡大していると指摘する。5 経済格差をジニ係数の数値から比較すると、日本のジニ係数はOECD諸国の平均より若干高い程度であり、決して国際的に高いとは言えない。しかし、現金給付と所得税を通じた富の再分配の水準はOECDの平均を大きく下回っている。富の再分配が十分に行われない場合には、格差が固定化される可能性が高いため、低所得者層に所得を再分配する、もしくは、低所得者が貧困から抜け出す支援をするための政策を実行する必要がある。また、女性は管理職に就く人数が少ない一方で非正規雇用の70%を女性が担っていることから、男女間の所得格差が問題となっており、この問題も解決する必要がある。さらに、イギリスの経済学者であるリチャード・ウィルキンソン氏は、相対的な所得の差が小さい国の方が健康レベルにおいて優れていて、社会問題の発生率も小さいことなどから、経済格差は様々な社会問題の原因になっていると指摘している。

 こうした問題を踏まえて、格差を放置すべきではないという認識は一致している。しかし、その方法論に関して、政府の介入の度合いを巡って政党間で主張が対立している。政府が経済格差をどのように、どの程度是正していくかということが、この対立の焦点である。

【キーワード】ジニ係数、新自由主義、累進課税、富の再分配、格差の固定化

 

3. 各政党スタンス

① 社会保障費の削減と規制緩和を重視(維新の会、みんなの党、自民党)

みんなの党は、低所得者層への「給付つき税額控除方式」の導入、「ミニマムインカム」の創設で社会的弱者への配慮を掲げている。維新の会は、税金投入を低所得者の最低生活保障・一定の所得保障に限定すること、一方で消費の活発化を目的に所得税を減税することを主張している。自民党は経済成長のための大胆な規制緩和を行うが、社会的弱者への経済的な自立促進・支援の実施と、男女間の格差に関連して、指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%以上にする目標を掲げている。

 

② 中間派(民主党、公明党、生活の党)

民主党は、低所得者対策、最低賃金の早期引き上げ、税制の所得再分配機能を高めるための所得税・相続税改正を主張している。公明党は、軽減税率の導入や低所得者対策、所得税の累進性強化、格差是正と相続税の見直しを主張している。生活の党は経済格差に関する記述はないが、財政出動による完全雇用と非正規雇用の正規雇用への転換、セーフティネットの拡充を主張している。

 

③ 格差是正のための社会保障政策を重視(共産党、社民党)

共産党は、証券税制の見直し、所得税・住民税の最高税率引き上げ、高額資産に課税する「富裕税」の創設など、富裕層に対する課税の強化によって社会保障財源を確保すると主張している。社民党は、正規雇用の拡充、最低賃金の引き上げ(時給1000円以上)、雇用における男女平等に向けた法整備等により、所得と雇用の安定を掲げている。

 

4. リンク集

・土堤内 昭雄、2011/06、ニッセイ基礎研究所「格差社会を考える~容認されない格差とは何か~」
 http://www.nli-research.co.jp/report/report/2011/06/repo1106-2.pdf
・原美和子、2010/5、NHK 社会や政治に関する世論調査「浸透する格差意識 ~ ISSP 国際比較調査(社会的不平等)から~」
 http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2010_05/100505.pdf
・松尾 浩平、2012/07、PRI Discussion Paper Series (No.12A-07)「所得・消費から見た日本の不平等度 ~2000 年代の格差の実態~」
 http://www.mof.go.jp/pri/research/discussion_paper/ron236.pdf
・TED Talks、R. Wilkinson (2011)「いかに経済格差が社会に支障をきたすか」(日本語字幕版)
  http://www.ted.com/talks/lang/ja/richard_wilkinson.html
1 厚生労働省 「平成23年 国民生活基礎調査の概況 II 各種世帯の所得等の状況」
 http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa11/dl/03.pdf
2 厚生労働省 雇用均等・児童家庭局「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン(2010年8月)」
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/seisaku09/pdf/02.pdf
OECD、(2012)「日本再生のための政策 OECDの提言」
 http://www.oecdtokyo2.org/pdf/theme_pdf/macroeconomics_pdf/2012%2004_Japan_Brochure_JP.pdf
4 大竹文雄、小原美紀、内閣府経済社会総合研究所「所得格差」
 http://www.esri.go.jp/jp/others/kanko_sbubble/analysis_06_08.pdf
5 池田信夫、2010/04/08 、Newsweek日本版「日本が『本物の格差社会』になるのはこれからだ」
 http://www.newsweekjapan.jp/column/ikeda/2010/04/post-160.php
TED Talks、R. Wilkinson (2011)「いかに経済格差が社会に支障をきたすか」(日本語字幕版)
  http://www.ted.com/talks/lang/ja/richard_wilkinson.html

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