総務省の調査により、今年2月の時点で完全失業者(15歳以上の働く意欲のある人のうち、職がなく求職活動をしている人のこと)が全国に277万人いることが分かった。また、同時点での完全失業率(総労働人口に占める完全失業者の割合)は4.3%である。完全失業者数が33ヶ月連続で減少している一方で、完全失業率は必ずしも減少していない。これらの数値から、現状では失業問題が解決に向かっていないことが分かる。1
完全失業率を世代別に見ると、15~24歳で6.6%、25~34歳で6.0%であり、特に、15~24歳の男性の完全失業率は7.1%と高い水準である。1 若年層の失業問題は深刻であり、政府の喫緊の課題である。また、失業と自殺には強い関連性があることが研究から明らかになっている(右図参照)。2 年間約3万人という自殺者数を減少させるためにも、失業問題対策の必要性は高い。
長期間に渡る経済の低迷、大企業の国内工場閉鎖・縮小、技術革新、グローバル化等の影響を受けて、これまで雇用の受け皿となってきた製造業、卸売業、小売業などの就業者数は大きく減少した。失業問題の背景には、こうした産業構造の変化によって雇用のパイが縮小していることがある。一方、成長が期待されている情報通信産業、環境・エネルギー産業などの新しい産業は産業規模や小さいことや、就業者数が少ないことから、現時点では新しい雇用の受け皿とは言えないだろう。1
失業問題対策としては、経済成長によって雇用の創出を目指す方針と、就業者・失業者の保護や雇用・再雇用の支援による完全雇用を目指す方針が考えられる。経済成長のための解雇規制の緩和や雇用の流動化は就業者の格差を拡大するリスクがあり、反対に、就業者の保護や公共投資は、企業の競争力の損失や財政圧迫のリスクがある。
失業問題は世界規模の金融危機、経済のグローバル化、技術革新等を受けて世界各国で起きている問題である。ILO(国際労働機関)の報告によれば、2012年には世界中で約1億9700万人が失業状態にあったとされている。日本の失業率は1990年以降に約2%上昇したが、日本企業が「終身雇用」を原則にしてきたこともあり、依然として先進国の中でも低い水準を保っている。しかし、日本は長期失業者の割合が高く、特に若年層の男性の失業長期化が大きな問題である。この問題の背景には、製造業、卸売業、小売業、運輸業、建設業といった、男性の正社員を多く雇用してきた産業における就業者数の減少や、非正規雇用率の増加という現状がある。また、雇用全体の約7割を担う中小企業での離職率が高いことや、結婚や出産を機に離職した女性の職場復帰が困難な状態にあることも問題である。
失業問題の根底には、産業構造の転換による雇用のパイの減少、雇用体系の変化がある。先に述べた通り、経済の低成長、大企業の海外移転・国内事業所の縮小、技術革新、グローバル化等の影響を受けて、これまで雇用の受け皿となってきた製造業、卸売業、小売業等の就業者が大きく減少している。これまで日本が世界をリードしてきた家電業界においても、大手企業が大規模のリストラや早期退職の募集を実施したことが大きな話題となっている。また、デフレ(デフレーション)も失業問題の原因として挙げられる。一般的に、デフレ状態では失業率が上昇し、インフレ(インフレーション)状態では失業率が低下すると言われる(フィリップス曲線)。デフレになると、企業は競争力を保つために、雇用調整によって人件費を削減する傾向が強い。こうした問題は深刻だが、一方で、高齢化社会のニーズを受けた医療・介護業での就業者数の増加、環境・エネルギー、IT、コンテンツ産業などの新産業の成長といった動きも見られる。今後、これらの産業の規模が拡大して就業者を増やすことができれば、新しい雇用の受け皿が生まれる可能性がある。
失業問題への対応としては、経済成長による雇用の創出を重視する方針と、失業対策によって完全雇用を目指す方針がある。経済成長による雇用の創出を重視する政党は、インフレ率が高かった高度経済成長期からバブル期において日本は完全雇用(働く意志がある人全員が仕事に就ける状態)に近い状態だったことから、デフレからの脱却と経済成長によって雇用を創出することで、完全失業率の低下を目指している。一方、失業対策による完全雇用を重視する政党は、解雇規制の強化(詳細は、解雇規制のページを参照)、失業者に対するセーフティネットや再就職支援等の拡充、公共事業・公共投資による雇用の創出によって失業問題の解決を目指している。
経済成長による雇用の創出と、規制緩和による雇用の流動化、労働市場の自由化を目指す。労働者・失業者に対する政策としては、「すべての労働者に対する雇用保険の適用」・「雇用保険と生活保護の隙間を埋める新たなセーフティネットを構築」(みんなの党)、「正規雇用と非正規雇用の格差是正」(維新の会)が挙げられる。しかし、「がんばれば報われる雇用・失業対策」(みんなの党)、「ニーズのない雇用を税で無理やり創出しない」(維新の会)という方針から分かるように、雇用創出のための公共投資・公共事業には消極的である。
基本的には、①と同様に、経済成長戦略の中で雇用創出を目指す。しかし、同時に、「地域の経済活性化と雇用増のための交付金制度の創設を検討」(自民党)、「グリーン(環境・エネルギー分野)、ライフ(医療・介護分野)の産業育成」(民主党)といった方針のように、地方産業や中小企業、環境・医療分野など、特定の分野に対しては公共事業・公共投資を実施して雇用の創出を目指す。
「大企業にためこまれている内部留保を雇用や中小企業に還元」(共産党)、「ヒューマン・ニューディールで雇用を創出」(社民党)、「内需拡大と完全雇用の実現を目指して、継続的な財政出動を行う」(生活の党)といった方針のように、政府による積極的な公共事業・公共投資、失業対策を行うことで完全雇用の実現を目指す。また、解雇規制法の実施(共産党)や正規雇用の原則化のように、就業者に対する保障も重視している。