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解雇規制

1.ポイント解説

① 規制改革で、企業は正社員を簡単にクビにできるようになる?

 安倍首相の主導のもと、産業競争力強化や雇用制度改革の観点から、解雇規制の緩和に関する議論が行われている。12  現在は企業が整理解雇を実施する際、「解雇が客観的に合理的な理由を持ち、社会通念上相当である」という条件を満たす必要があるが、今回の議論では企業が「再就職支援金」を支払うことで解雇を可能にすべきといった意見も出ており、現在の解雇規制は今後改正される可能性がある。

希望・早期退職者募集状況調査(2012) 東京商工リサーチより

 

② 昨年は、大手メーカーなど63社が、1万7,705人の希望・早期退職者を募集。

 東京商工リサーチの調査によると、2012年に希望・早期退職者を募集した上場企業は63社、総募集人数は前年から倍増の1万7,705人であり、電機メーカー等の深刻な業績不振を反映した結果である。企業は整理解雇の前に希望・早期退職を募集することから、今後も経済状況が改善されない場合、これらの企業が整理解雇に踏み切る可能性がある。4

 

③ 解雇規制の緩和により、「自由に働ける社会」が経済を活性化させる可能性。

 解雇規制緩和派は、規制緩和によって成熟産業から成長産業への雇用の流動化を促進することで、人々がより自由に働ける社会と、経済の活性化を実現できると主張している。近年、製造業等における就業者の減少が進んでおり(詳細は、失業問題のページを参照)、今後、成長産業に就業者を移行していくことで経済の活性化と雇用の拡大と流動化を実現できる可能性がある。

 

④ 解雇規制の強化が「リストラを恐れずに働くことができる社会」を実現させる可能性。

 解雇規制強化派は、解雇規制を緩和した場合、不況時に失業者が急増し、さらに再就職が困難な状況に陥ると主張する。そのため、従来の解雇規制の強化とともに、非正規雇用者に対する解雇規制の強化、または非正規雇用制度自体を廃止することにより、就業者がリストラの不安なしに働くことができる社会の実現を目指す。

 

2. 詳しく知りたい人に

 解雇規制は正規雇用された就業者を守るための規制で、労働契約法第十六条等において、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されている。3 現在、企業による従業員の解雇に関しては、整理解雇、懲戒解雇、普通解雇という3つの分類が存在する。整理解雇は企業の業績の悪化に伴う解雇、懲戒解雇は就業規則を違反した者に対する解雇、普通解雇は能力不足など、その他の事情による解雇である。特に、整理解雇に関しては、整理解雇の四要件(人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履行、被解雇者選定の合理性、解雇手続の妥当性)という条件が存在する。しかし、中小零細企業では経営に余裕がないために上記の規制が必ずしも守られていないという実態があり、また、一部の大企業では社員の自主的な退職を強要するための「追い出し部屋」の存在が明らかになるなど、現在の解雇規制が実態に即していないという指摘がされている。こうした事情の背景には、解雇に関するルールが明確化されていないという問題があり、解雇規制緩和の是非に関する議論と同時に、企業と就業者の双方が納得できるより明確な解雇ルールを作ることが重要である。

 現在、解雇規制緩和の是非に関しては、規制緩和派と規制強化派の政党間で大きく意見が分かれている。解雇規制緩和派は、整理解雇に対する厳しい基準が成熟産業から成長産業への人材の移動を阻害する要因であり、また、企業が新規採用に対して消極的になることで若年層の雇用を低迷させる理由にもなっていると主張する。そのため、解雇規制の緩和を支持する政党は、成長産業に人材を集中させて経済成長を実現すること、人々が流動的に働けるようにすることを目指す。また、解雇規制の緩和による失業者の増加に対応するために、失業を長期化させないための制度(失業問題のページを参照)や、人材を他業種や行政、NPO等で幅広く活用するための制度作りを同時に行うとしている。

 一方、解雇規制強化派は、解雇規制を厳格化することで人々の雇用を守るべきだと主張する。解雇規制が緩和された場合、不況時には多くの就業者がリストラされる可能性があり、さらに再就職することが困難になると指摘している。また、現状では、たとえ正社員と仕事内容が同じであっても、非正規雇用者は容易に解雇されることから、正規雇用と非正規雇用の待遇のおける格差を問題として挙げている。そのため、解雇規制強化派は、就業者の雇用を保護して、同一労働同一賃金の下で全員が働けるようにすることを政策として掲げている。

【キーワード】整理解雇の四要件、窓際族、追い出し部屋、雇用の流動化、同一労働同一賃金、ワークシェアリング

 

3. 各政党スタンス

 

 

① 解雇規制緩和派(みんなの党、維新の会、自民党)

 維新の会は、衰退産業から成長産業への人材移動を支援することを目的とした、解雇規制の緩和を含む労働市場の流動化を方針としている。

 みんなの党は、「正社員の整理解雇に関する4要件を見直し、解雇の際の救済手段として金銭解決を含めた解雇ルールを法律で明確化する」としている。

 自民党は2012年度マニフェストには明記していないが、政府の産業競争力会議、規制改革会議において解雇規制の緩和を検討しており、今後は党全体として解雇規制緩和の方向に動く可能性が高い。

 

② 解雇規制強化派(共産党、社民党)

 共産党は解雇規制法の制定、リストラ・アセスメント制度の実施、有期雇用の規制のように、解雇規制のみならず包括的に就業者の権利を保護する政策を掲げている。

 社民党は、整理解雇に関する四要件を企業に厳守させることに加えて、「雇用創出型ワークシェアリング」(雇用を分け合うこと)を要件に加えるべきだと主張している。

 

③ 言及なし(民主党、公明党、生活の党)

民主党、公明党、生活の党はマニフェストの中では解雇規制に対する主張を明記していない。

 

4. リンク集

・電子政府の総合窓口e-Gov 労働契約法(平成十九年十二月五日法律第百二十八号)
  http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H19/H19HO128.html
・岸博幸、2013/04/12、ダイヤモンドオンライン、岸博幸のクリエイティブ国富論「『解雇規制緩和』を巡る誤解」
 http://diamond.jp/articles/-/34559
・藤沢数希、2011/10/17、ダイヤモンド社 書籍オンライン 「日本人がグローバル資本主義で生き抜くための経済学入門 第1回」
  http://diamond.jp/articles/-/14451
・藤沢 数希、2013/02/14言論プラットフォーム アゴラ「日本の大企業は詰んでいる ―解雇規制緩和についての考察」
  http://agora-web.jp/archives/1519131.html
・守島基博、2012/07/30、PRESIDENT Online 実践ビジネススクール 「いよいよリストラが正社員に波及、日本型経営に異変」
 http://president.jp/articles/-/7014
・  東京財団、政策研究・提言「環境変化に合わせた雇用のあり方」
 http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=1127
1首相官邸 日本経済再生本部、産業競争力会議 第4回議事要旨
  http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai4/gijiyousi.pdf
2 内閣府 規制改革会議雇用WG第 1 回会合
  http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg/koyo/130328/agenda.html
電子政府の総合窓口e-Gov 労働契約法(平成十九年十二月五日法律第百二十八号)
  http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H19/H19HO128.html
東京商工リサーチ、2013/01/15、「2012年 主な上場企業 希望・早期退職者募集状況調査」
 http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/2013/1224800_2164.html
Yahoo! ニュース、東洋経済オンライン、2013/04/07「『解雇ルール見直し』に強まる反発」
 http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130407-00013535-toyo-bus_all&p=1

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