混合医療とは保険の対象範囲での診療と私費による自費での診療を組み合わせることを言う。日本では入院時の個室化や一部の高度な技術を除いて原則禁止とされているが解禁や例外の拡大の議論が進んでいる。メリットとしては癌治療などで保険適用外の治療が受けやすくなり、患者の選択肢が広がること、一方でデメリットとしては健康や命はお金の有無で区別すべきでないこと、質の低い医療が含まれうることなどを挙げられる。日本医師会などは反対している[1]。
安倍政権は医療分野での規制改革を重要課題としており、医療機器の認証制度の審査の短期化、処方箋の電子化、医薬品のネット販売解禁など様々な分野で規制改革を進めている。また、山中教授のIPS細胞研究で注目を集める再生医療分野も成長戦略の柱の一つとされ、製品が早期に承認されるための必要な施策を講じることを定めた再生医療推進法が成立している。
現役世代が自己負担割合が3割であるのに対し、高齢者医療費の自己負担割合は1割となっている。一方で現役世代が肩代わりしている負担分が年間6兆円近い額になる[2]など高齢者の医療費は膨張し続ける現状がある。自己負担割合の2割への引き上げが2008年に決定しているが、特例措置を繰り返し延長することで依然として1割のまま据え置かれている。
医師不足の問題が叫ばれて久しい。第一に、小児科、産婦人科などの特定分野に医師が不足している。これらの分野は激務であることに加え、訴訟などのリスクも高いことも原因に挙げられる[3]。また、地域的には離島や農村部などでの医師不足が叫ばれるが同時に都心部での人口比での少なさも指摘される(図参照)。現状の対応策としては、医学部の定員増や女性医師のキャリア形成支援を通した医師数の確保や一定期間当該地域での医療に従事することを求めた地域枠の奨学金などの誘導策がとられている[4]。
医療は個人の生活にとって極めて重要な問題であるが、同時に様々な問題を内包している。ポイント解説では混合医療、規制緩和、高齢者医療費負担、医師不足の問題を取り上げたが、ここではさらに出生前診断、たらいまわし、終末医療、外国人看護師の問題を取り上げることで問題を概観していきたい。
出生前診断は赤ちゃんがおなかの中にいるうちに何らかの障害などを持っていないかを調べる手法で2013年4月1日から新型の出生前診断が始まった。新しい手法は少量の採決で負担が少なく、ダウン症かどうかなどが99%の確率でわかるため利用者も既に280組を超えた[5]。一方で生命の選別に繋がりうるため反対論も強く、検査を受けるために必ずカウンセリングを受ける必要があるなど慎重な手続きも取られている。
次に「たらい回し」の問題である。2006年に奈良県で起きた妊婦が計19病院に受け入れを断られた事件や2013年1月の埼玉県で呼吸困難で救急搬送された75歳の男性25病院から36回受け入れを断られ、死亡した事例などに代表されるように近年注目される問題の一つとなっている[6]。佐賀県ではすべての救急車にiPadを配布し情報の共有を瞬時に行えるようにするなど[7]の対策が行われる一方で、病院側としては医師不足、ベッドが満床という受け入れが不可能な状態であることが多いとされ、医師の増員の必要性も主張される。
次に終末医療、尊厳死の問題である。終末医療とは「重い病気の末期で不治と判断されたとき、治療よりも患者の心身の苦痛を和らげ、穏やかに日々を過ごせるように配慮する療養法」[8]のことである。アメリカワシントン州では州法によって治療を停止する消極的な形式だけでなく、尊厳死を望む末期ガン患者に対して致死量の薬を処方するという「医師が介助する死」まで認められている[9]。どこまで尊厳死を認めるべきなのか、終末医療の在り方は生命を扱う医療という領域において極めて重要な問題を投げかけている。
最後に外国人看護師の問題に触れる。外国人看護師の候補者はEPAに基づいて08年度にインドネシアから、09年度にフィリピンから受け入れを開始したが看護師国家試験の合格率が2012年度は9.6%と低く、この現状を疑問視する意見も多い。一方で合格率が低い原因としては漢字などの日本語による試験問題のむずかしさが挙げられているが、日本の医療のチームの一員として働き日本人の患者を相手にする以上はこのハードルは仕方ないという意見もある[10]。日本の看護力不足を補うために外国人看護師をいれているのではないとされるが、将来的な需給のバランスも考え議論を進める必要がある。
どの党も医療制度の充実を図る点では当然一致しているが、その方法として支援を拡充することによるか、混合医療の導入などの改革によるかで方法論が異なる。
日本維新の会は混合診療の完全解禁、公的医療保険給付の重症患者への重点化などを掲げる。みんなの党は医師数の増加なども主張しているが混合診療の解禁や医療のIT化、訪問看護ステーションの一人開業を認めるなど改革による医療の充実という方向性を強く打ち出す。
自民党は医師の人数確保や処遇改善、総合診療医の育成などの医療体制の見直しなどを主張し、支援拡充的な色彩も上記二党よりは強い。また、記述量はかなり多く医療分野への関心の高さが伺える。公明党は再生医療などの研究開発の促進を主張するとともに、高齢者の負担額の軽減、医師不足の解消、がん対策の強化などを謳う。生活の党は「医療~介護~福祉」の一体的推進体制を主張し、在宅介護支援などを強調する。
民主党は言及は少ないが、言及対象は保険制度の軽減の対象の拡大となっている。共産党と社民党は弱者の負担の軽減などを主張し、支援拡充による医療の充実の方向性をはっきりと打ち出す。