2025年には、生産年齢人口と労働人口が減少する一方で、団塊の世代が75歳以上に到達することから高齢者人口がピーク(約3500万人)に達するとともに、認知症高齢者も現在の150万人から320万人に増加することが予想される[1]。また高齢者一人暮らし・夫婦のみ世帯は、2025年には高齢世帯が約1900万世帯(うち単独・夫婦のみ世帯が約7割)まで増加することが予想され、家族の介護力の低下や地域コミュニティの脆弱化が叫ばれる現在、高齢者の住まいの確保から医療、介護、見守り等の生活支援サービスのように包括的・継続的に行うサービス提供が求められる[2]。2025年には介護従事者は最大255万人まで増えると見込まれており[3]、介護サービスの質を高めるために、良質な介護従事者の確保を狙った処遇向上などが議論されている。
2000年に介護保険制度が導入され、介護制度の利用者数も急増(00年の149万人→11年の417万人[4])しているが、当初の理念にも組み込まれていた要介護高齢者の自立生活や介護者の負担解消の実現には不十分だという指摘がある。例えば、政府は社会的入院などによる医療費圧迫を抑えるため、在宅介護サービスなどへの移行を推進しているが、在宅サービスでは24時間体制の十分なサービスが整っていないという理由から、特別養護老人ホームの入所待ちをしている人は42万人を超えると言われる[5]。また介護者を支援する適切なサービスが行き届いていないことは、家庭での介護者にも重い負担を与えており、11年度の高齢者虐待件数は、約1万6000件に達した[6]。2005年の厚生労働省の調べによると介護者の23%が「うつ状態」、更に高齢者虐待に至ってしまった人のうち4人に3人が介護の疲れや悩みを抱えているという[7]。介護は、その物理的・肉体的な負担が大きいため、1人で介護を抱え込んで疲弊し、精神的に孤立したときにうつ病に陥りやすい[8]。
2012年介護保険制度改正のポイントは、「24時間対応型の訪問サービス」と居宅介護支援に訪問介護を組み合わせる「複合型サービス」を創設していることである。家庭での介護の負担が重いことに対して適切な支援を届け、コスト高の施設から居宅型介護への移行を促進することが狙いだ[9]。また、医療ニーズが高い要介護者の増加をにらみ、介護職員による喀痰(かくたん)吸引などの医療行為も一部解禁し、介護保険法と同時に「社会福祉士及び介護福士法」を改正し、介護福祉士や一定の研修を受けたヘルパーによる喀痰吸引と経管栄養を可能にした[10]。こうした改正を重ね、厚生労働省は地域包括ケアシステム(地域住民に対し、保健サービス、医療サービス及び在宅ケア、リハビリテーション等の介護を含む福祉サービスを、関係者が連携、協力して、地域住民のニーズに応じて一体的、体系的に提供する仕組み)の構築を目指す。
もともと介護保険制度は、それまでの措置制度であった老人福祉制度が急速に進行する高齢化社会に起因する社会問題に対応することができていなかったことから、年金、医療に継ぐ第三の社会保障制度として2000年度に創設された。当時の措置制度は、①所得調査が義務づけられており、本人や扶養者に支払い能力がある場合は重い負担が課せられた点、②サービスの提供機関が市町村自身あるいは委託を受けた事業者のため、競争原理が働かずサービスが画一性であった点、③利用者は市町村が必要と定める水準のサービスしか受けることができず、制度の使い勝手が悪かった点、などの問題点が指摘されていた[11]。そのため、当該措置制度のもとでは介護サービスが普及せず、医療が必要ないにも関わらず病院に長期入院する社会的入院や適切なサービスを受けられない寝たきり老人の存在が社会問題になった[12]。
以上の社会状況から、介護を社会全体で支えるために医療や年金と同様、条件を満たす人が強制加入して保険料を払うことで財源を増やし、民間参入を進めることでサービスの拡大と室の向上を図る介護保険制度が創設された。介護サービスを使う場合は、市町村の窓口に申請した後、調査員が心身状態をチェックし、専門家の合議を経て介護の必要度(要介護認定)が決められる[13]。要介護認定には、要支援1〜2、要介護1〜5の計7段階あり、介護サービスを受けるには「要介護」の認定を受ける必要がある。財源構成は、利用者負担を除き、公費が50%、保険料が50%(高齢者が20%、現役世代が30%)で、高齢者の保険料は市町村ごとに異なり、2012〜2014年は全国平均で月額4920円となっている。現役世代は40歳以上になると医療保険と一緒に介護保険料を払い始めるようになり、その額は全国平均で月額4900円(労使合計)である[14]。比較的に収入の低い中小企業の労働者の負担が大きくなっているので、野田政権は年収に応じた負担を設定する「総報酬割り」の導入を社会保障改革案に盛り込んだが、負担が増える大企業側の反発が大きく、法案提出及び実施は2013年度以降に持ち越されている[15]。
制度導入後、介護保険制度は着実に定着し、利用者数は2001年度の149万人から2011年の417万人に増加した[16]。厚生労働省によると、介護給付費は今後もハイペースで増え続け、2012年度の8.9兆円(GDP比1.8%)から、団塊の世代が75歳以上になる2025年度には19.8兆円(GDP比3.2%)に達する見通しである[17]。
介護職員の低賃金と離職率の高さ、それに伴う人材不足が社会問題化し、厚生労働省は09年度に職員1人に月1万5000円を支給する介護職員待遇改善交付金を導入した。当該制度は、2012年3月に修了し、法改正によって介護職員待遇改善加算制度が導入され[18]、職員の処遇改善が目指された。しかし制度が複雑になりすぎて、逆に現場の負担を増やしているとの指摘もある[19]。
各政党は、介護保険制度について単独に述べてはおらず、少子高齢化問題に対処するための「医療・介護政策」という位置づけでマニフェストに記載している。したがって、医療制度の改革にも触れた上で総合的な観点から政策マトリクスを作成した。全体的に公費負担積極派寄りが多いが、財源の確保について触れている政党は少ない印象である。
共産党は、国民健康保険料を軽減に加え、医療費の窓口負担の無料化を公約として掲げる。さらに介護分野に対しては、介護の利用料を無料を掲げる。社民党は、国保への公費投入拡大、後期高齢者医療制度は廃止をうたう。自民党と公明党は、高齢者医療や介護保険への公費負担の増加や介護保険を利用していない高齢者の保険料軽減について言及している。ただ自民党は後発医薬品の仕様拡大や「介護サービスの効率化」についても触れており、中立派に近い積極派に位置づけた。
民主党は、健康保険の負担の公平化、持続可能な介護保険制度、後期高齢者医療制度の廃止は国民会議で議論と主張する。生活の党は、国民皆保険を堅持し、さらに将来の医療保険制度の一元化を目指し、後期高齢者医療制度は廃止する。医療~介護~福祉の一体的推進体制を確立し、高齢者が住み慣れた地域や自宅で暮らせる地域包括ケア、在宅介護支援体制を強化して、介護制度を充実させると主張するが、公費負担の是非については述べられておらず、中立派と位置づけた。
維新の会は、社会保険としての受益と負担をバランスさせることを目指し、医療費の自己負担割合は年齢ではなく所得に応じて設定、混合診療の解禁を公約に掲げる。介護分野に関する直接の言及は少ないが、公費投入には消極であることが他の社会保障政策から分かる。みんなの党は、健康保険料の月収上限の撤廃や混合診療を解禁、更に外国人介護士の積極的な受け入れを目指すことで、日本の医療・介護体制の改革を目指す姿勢が伺える。介護分野についての言及は少ないが、社会保障の世代間格差の縮小を掲げるので、公費投入消極派に位置づけた。