日本では2010年に世界で初めて超高齢社会に突入するなど、急速な少子高齢化が進んでいて、政府は2050年には高齢者1人を1.2人の現役世代が支える「肩車」型社会になると予測する。1人の高齢者を9人の現役世代が支えていた1965年と比較すると、現役世代の負担は約7.5倍である。1
2013年1月末の時点で、平成24年度分の国民年金保険料の納付率は57.1%と、未納者が40%を超える状況にある。2 また、納付率を年齢階級ごとに見ると、特に20代後半で46%(2011年度)と低くなる。3 未納率の増加により、年金制度の存続が危うくなると同時に、将来、低年金・無年金者が増加することで生活保護を受ける人数が増加することも懸念される。
昨年のAIJ投資顧問による1000億円を超える運用費が消失した事件を受けて、財政が「健全」とされる一部を除いた厚生年金基金は今後廃止される見通しである。4 また、公的年金の一部から運用される年金積立金は、債券や株式など複数の資産に分散投資して安定的に運用するとされるが、10兆円近い損失を出した年度もあるなど、リスクを伴う年金資金の運用には課題がある。5
少子高齢化の進行する中で「賦課方式」を続けることは不可能であるという認識のもと、自己負担に基づいた積立方式の移行や年金の一元化を目指す意見がある。努力に応じた自己負担と年金支給を原則とすることで、少子高齢化社会でも持続可能な年金制度を実現する可能性がある。
年金制度は高齢者の生活に欠かせない制度であり、賦課方式を中心にした年金制度を守ることを目指す意見がある。年金支給額の削減には反対であり、納付率の向上等をもとに、社会保障拡充の一環として、高齢者の安心を守る年金制度を実現できる可能性がある。
日本の公的年金制度は、全ての国民を対象とする「国民皆年金体制」を採用しており、基礎年金と上乗せ部分を組み合わせる方式である。現在、高齢者世帯における所得のうち約70%は公的年金による収入であり、また、収入を得る手段が公的年金・恩給のみという高齢者世帯が全体の約60%を占めることから、年金制度は定年退職後の生活を支える上で欠かせない制度だと言える。6 しかし、日本の経済・財政状況や、少子高齢化や平均寿命の伸びを考えると、現在の公的年金制度を維持するのは困難な状況にあり、現役世代を中心に制度への不安が広がっている。
年金制度への不安が広がる背景には、国民年金保険料の未納、「賦課方式」の制度的限界、支給額の改定という大きく三つの問題がある。まず、国民年金保険料の納付率は6割程度であり、特に20代後半から30代前半の人の間で未納率が高いが、その原因としては所得の低下による経済的問題、厚生年金の適用範囲外となる臨時・パートタイム労働者が増加したこと、「保険料を払っても自分が高齢者になった時に年金を貰えないのではないか」という不安や不信感があることなどが考えられる。年金への不安や不信感の存在は、保険料の未納者の約半数(国民年金第1号被保険者)が、支給ルールや金額が明確化された生命保険や個人保険等に加入していることからも明らかである。7
年金制度を維持するための財政方式は「賦課方式」と呼ばれる、現役世代が保険料を負担することによって高齢者に年金を給付する「世代間扶養」の仕組みを基本にしている。しかし、この仕組みは多数の現役世代が少数の高齢世代を支えることによって成立する。1965年には1人の高齢者を9.1人の現役世代を支える状態だったが、少子高齢化の進行により、現在で1人を2.4人の現役世代が支えるという高負担の状況にある。さらに、2050年には1人の高齢者を1人の現役世代が支えるようになるという推測がされている。このように、少子高齢化の進行によって現役世代の負担が高まることから、世代間で負担をする「賦課方式」の限界が指摘されている。
また、年金給付額の改定に関しては、2004年までは「物価スライド」と呼ばれる、物価の変動に応じて給付額を調整する制度を採用していた。その後、日本の経済・財政状況や、平均寿命の伸びと少子高齢化の影響を考慮して、2004年に「マクロ経済スライド」と呼ばれる、年金を支える力の減少や平均余命の伸びをスライド調整率(0.9%を想定)として、支給額に反映する仕組みに変更した。(物価上昇率 – スライド調整率 = 変動率) しかし、現在の支給額は、過去に物価スライド特例措置によって物価下落時期に年金額を据え置いたために、特例水準と呼ばれる本来よりも2.5%高い金額で支払われている。さらに、2004年に法改正が行われて以降、2012年までにマクロ経済スライドによる調整が実施されたことはない。従って、これまで想定より多く支払われてきた分の支給額のしわ寄せが、保険料の増加や将来的な支給額の減額につながるのではないかという批判がある。
そうした問題がある一方で、2001年に確定拠出年金法という、公的年金に上乗せされる部分に関して、個人が拠出したお金(掛金)とその運用収益の合計額をもとに年金給付額を決定する制度が制定された。8 自分で年金を積み立てる方式には、高齢化の影響を受けないことに加えて、年金への不安や不信感が起こりにくいというメリットがある。昨今では、確定拠出年金のような積立方式を公的年金に導入すべきという議論も行われており、今後は抜本的な制度改革の可能性も含めて、将来にわたって持続できる年金制度を考えていくことが求められる。
社会保障における受益(給付)と負担(保険料)のバランスを世代間で均等にするという方針のもと、年金制度を現在の賦課方式から積立方式に移行することで持続可能な年金制度の実現を目指す。さらに、みんなの党は基礎年金や生活保護を統合した「ミニマムインカム」の創設、維新の会は年金給付開始年齢の段階的引き上げや「世代別勘定区分」の設置を掲げる。
少子高齢化の進行を踏まえた上で持続可能な社会保障制度の重要性を主張するが、積立方式への移行等には慎重な立場である。自民党は社会保険制度を基本に保険料を納付した者に年金を支給する原則、民主党は受給資格期間を25年から10年へ短縮すること、公明党は年金の最低保障機能の強化を掲げる。
高齢者の暮らしを守るという立場のもとに制度の維持・拡充と、給付の拡大を目指す。社民党は全ての人に最低月額8万円を保障する全額税財源による「基礎的暮らし年金」の創設、共産党は年金削減政策の中止と拡充を掲げる。