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生活保護

1.ポイント解説

① 昨年度、生活保護の給付総額は国と地方自治体で3.7兆円に

生活保護受給者数は平成23年7月に戦後混乱期の数値を超えて過去最多となり、その後も更新を続けている。そして、平成24年度の給付総額は約3兆7000億円にのぼった[1]。給付の1/4は地方公共団体の負担であり、各地の地方公共団体の財政悪化の一因となっている。この問題に対し、厚生労働省は一般的な生活水準を鑑みた上で、給付の削減の方針を打ち出している。

 

② 平成23年度に不正受給と認められた金額は173億円にのぼる

厚生労働省は平成23年度の生活保護の不正受給が全国でともに過去最多の3万5568件、金額にして約173億1000万円に上ったことを明らかにした[2]。芸能人の家族をめぐる問題で注目された生活保護の「不正受給」だが、所得や親族についての不正申告から、医療費が無料となる仕組みを悪用しての不正搾取までその態様は様々である。

 

③ 生活保護制度を悪用した貧困ビジネスの存在も明らかに

組織的な不正受給として、生活保護受給者の医療費は全額が公的負担となることを悪用し、受給者への不要な入院や治療によって利益を得ていた病院や、受給者に粗末な寝床を提供し、実態よりも高額なものとして申告させた住宅扶助を巻き上げる業者の存在が明らかになった。これらの貧困ビジネスが暴力団の新たな資金源になっているという[3]

 

④ 兵庫では生活保護受給者のパチンコを禁止する条例が可決された

兵庫県小野市では生活保護や児童扶養手当などの受給者がパチンコなどで浪費することを禁止し、市民には不正や浪費についての情報を提供することを責務とした「小野市福祉給付制度適正化条例」案が可決された[4]。生活保護などの適正支給を目的とした全国でも例がない条例に、憲法違反との声もある。

 

2.詳しく知りたい人へ

生活保護は「資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度[5]」とされており、収入や資産の有無などを鑑み、世帯ごとに給付を受けることができる。給付のメニューは生活費となる生活扶助に始まり、住宅扶助や医療扶助から葬祭扶助まで幅広く用意されている。この生活扶助は居住している地域や世帯員の年齢に伴って基準が異なっており、できるだけ世帯の実態に即して必要十分な給付がなされるようになっている。この窓口となるのは居住する地域の福祉事務所(原則として市部では市、町村部では都道府県が設置し、一部の町村部では町村が設置している)であり、保護を希望する者はまずは相談をする必要がある。そして、収入が無く就労も難しいこと、預貯金や生命保険などの資産が無いこと、年金や児童扶養手当などの他のセーフティーネットの活用ができないこと、親族などの扶養義務者からの仕送りを受けられないことといった事項についての調査を受けた末に、保護の開始が決定される。

 まず、生活保護をめぐる昨今の実態として、ここ数年来の給付総額急増があげられる。そもそも、生活保護は困窮するすべての者に給付されるという性質を持つが、実際には生活保護法(第四条一項)に「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と規定された「補足性原理」から、勤労能力を持つ壮年世代への給付は窓口で拒まれていた。しかし、平成20年のリーマンショックと前後して「ワーキングプア」「派遣切り」といった労働者・失業者の困窮が社会問題となり、平成21年3月の厚生労働省内で「単に稼働能力があることをもって保護の要件を欠くものではない」という通達が出され、各自治体で稼働世代への給付が行われるようになった[6]

 その結果、被保護世帯数において4倍増となった稼働世代が全体の生活保護受給者数・給付総額を押し上げ、戦後最高値を更新した給付総額は3億円を超えてなお膨れ上がり、4億円に迫っている。こうした現状に対し、厚生労働省の社会保障審議会において「生活保護基準部会」が設置され、生活保護の給付水準についての議論が行われた。そして、平成23年4月から平成25年1月にかけての全12回の会議を経て、一般の低所得者世帯の消費実態と生活保護の給付基準との間に乖離があり、世帯構成によっては給付水準の方が上回っている場合もあるという結論が出された[7]。この結論を受けて政府は給付水準の見直しを検討し、平成25年1月27日には生活扶助を本年8月から3年かけて740億円削減していくことを発表した[8]。また、この給付水準の見直しや「税と社会保障の一体改革」に代表される社会保障制度全体の見直しの機運を受け、同じく社会保障審議会に「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」が設置され、平成24年4月から平成25年1月にかけてのこちらも全12回の会議を経て、報告書が提出された。この報告書においては、「生活保護の受給に至る前の就労への支援」の大切さを説き、「中間的就労」の可能性が言及されている[9]

また、生活保護の給付額の拡大とともにその不正受給も件数・金額ともに拡大傾向にあり、平成22年度においては平成17年度(12,535 件)の倍の25,355 件、金額にして約128 億円の不正受給が明らかになっている。これらの不正受給の内訳をみると、平成22 年度の不正内容は稼働収入の無申告・過小評価が51.6%、各種年金等の無申告が27.7%であり、また、福祉事務所による課税調査などによって発見されたものが約9割となっている。不正受給は個人によるものと組織的なものとに分類でき、上述のものとともに偽装離婚や他人名義の口座を利用した虚偽申告、また、不正であるかの判断は分かれるが医療費扶助の不適正利用などは個人的なものと推測される。しかし、昨今では組織ぐるみの不正受給の存在が明らかになっており、前述の医療機関の事例やホームレスに生活保護の申請をさせて保護費をピンハネする事例などが問題となっている。このような貧困ビジネスは暴力団の新たな資金源となっていることが多く、組織的な囲い込みではないにしても、生活保護受給者が医療費扶助によって入手した精神薬の横流しを担う、といったように生活保護が食い物にされている事例は多い。

 

3.各政党のスタンス

 

① 適正化積極派(自民党、日本維新の会、みんなの党、民主党、公明党)

自民党は不正受給への厳格な対処、生活保護水準、医療費扶助の適正化を進め、給付水準の10%引き下げを主張し、適正化の方向性を最も強く打ち出す。日本維新の会も支給基準の見直しや医療扶助の自己負担導入などによる適正化を主張する。みんなの党は不公正、不正の是正を主張し、最終的には基礎年金と統合したミニマムインカム制度の創設を掲げる。民主党も調査権限の強化、罰則の厳格化など不正受給対策を進める。

 

② 中間派(公明党)

公明党は職業訓練や就労体験(中間的就労等)を通じた就労支援や就労促進のための積立金制度の創設など、生活保護から脱却、自立できるよう支援を強化を目指す一方で医療扶助の不正受給の防止・適正化を進める。

 

③ 生活保護維持・拡充派(共産党、社民党)

共産党は生活保護が必要とされるすべての人に保障することを重視し、保護費の切り下げにも反対する。社民党も保護が必要な人が保護が受けられていないことこそが問題とし、機能強化を主張する。

 

4.リンク集

・   厚生労働省HP:生活保護制度の趣旨からQ&Aまで掲載されている
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo/index.html
・   生活保護.com:受給申請や受給額についての解説も
http://www.ecostin.com/
・   DIAMOND ONLINE みわよしこ「生活保護のリアル」:現在は政策ウォッチ編を連載中 http://diamond.jp/category/s-seikatsuhogo

[1] http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1300Y_T10C12A6CR0000/
[2] http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1104T_R10C13A3CR8000/
[3] NHK取材班『生活保護3兆円の衝撃』(宝島社、2012年)、同『病院ビジネスの闇』(宝島社、2012年)
[4] http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201303/0005849261.shtml
[5] 上記厚生労働省HP
[6] 周燕飛・鈴木亘「生活保護率の上昇要因」『一橋大学経済研究所世代間問題研究機構ディスカッション・ペーパーNo.525』(2011年)
[7] http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002szwi.html
[8] http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS27029_X20C13A1NN1000/

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