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電力自由化

1.ポイント解説

① 新規参入を促すため発送電分離・市場創設など様々な手段が用いられる

電力自由化とは、参入規制が行われていた電力事業について新規参入を認めることを言う。しかし送電系統など莫大な初期投資が必要な従来の電力事業について、法律上の規制を撤廃だけでは新規参入の促進は難しい。そのため電力自由化にあたっては規制の撤廃だけでなく、発電事業者が平等に送電網を利用できるための発送電分離や発電した電気を売りやすくするための電力市場の創設など、新規参入が容易なシステムの設置が同時に必要とされる。

 

② 部分的自由化は行われているものの実質独占状態の日本の電気供給体制

戦後の日本における電力供給は全国の10電力会社と電力卸売会社(日本原電・電源開発)以外に新規参入が認められない体制が維持されてきたが、1995年より電力の卸売(卸供給事業者)の、2000年に大口需要家(特定規模電気事業者)における小売の自由化が行われた。これら事業者は送電について既存事業者に委託(これを託送と呼ぶ)する必要があるが、既存事業者は電力の安定供給を理由として接続する発電所に厳しい制約[1]を課しており、新規事業者に不利とされている。

 

③ 電力自由化を行うと原子力発電の新規導入は困難に?

原子力発電は用地買収や周辺自治体への補償、事故時の対応など政府の手厚い支援と長大な時間が不可欠な発電システムである。また方法も費用も確定していない放射性廃棄物処理の問題もあることから、自由化された市場において新規参入事業者が原子力発電所の新規建設を行うことは難しく、既存の原子力発電所以外が競争力を有する可能性は低いと見られている[2]

 

④ 電力自由化=再生可能エネルギー導入促進策ではない

再生可能エネルギーの普及にあたっては固定価格買取制度が導入促進策として用いられるケースが多いが、この制度は固定価格設定という政府の市場介入によって価格競争力がない再生可能エネルギーの普及を図るものであり、電力販売を市場開放し価格を市場原理に委ねるという純粋な電力自由化概念には反している[3]。現在の新規参入事業者と固定価格買取制度に依拠した再生可能エネルギー導入促進政策において必要とされているのは、完全な市場開放というより電力自由化の一手段として用いられている発送電の分離である。

 

2.詳しく知りたい人に

電力自由化とは、国や一部企業による独占的体制であった電力事業への新規参入を認め、市場競争を導入することを言う。以前は電力価格の低減がメリットとして強調されることが多かった電力自由化だが、近年は新エネルギー導入促進策として取り上げられるケースが多い。

風力や太陽光などの新エネルギーは1施設あたりの発電容量が比較的小さく、送電にあたっては小容量多数の送電施設を建設する必要がある。これは少数大型の発電所を用いる従来の発送電一体の事業者の供給システムと大幅に異なっており、結果として既存事業者からは普及が進まないとされてきた。そこで発電と送電を分離(=発送電分離)し、発電において新規参入を広く認めて新規事業者から新エネルギーの普及を図ろうというのがその趣旨である。

電力自由化は世界ではすでに一般的なものとなっている。例えば北欧では4カ国が電力の自由化を行い共通の電力市場(ノルドプール)を運用している。このうちデンマークは市場での売買を通して風力発電の弱点である出力の不安定さをカバーし、国内での大規模な風力の導入を実現している。ドイツでは1998年に電力産業の参入自由化が認められ、2003年以降数度に渡る法改正で発送電が分離された。これにより再生可能エネルギーによる発電事業の新規参入も容易となり、特に固定価格買取制度の対象となった太陽光発電の導入が爆発的に増大した。一方でアメリカの場合電力価格の下落を目的として電力の自由化が行われたものの、競争激化や送電網の整備が遅れたことから停電が多発[4]するなど電力の安定供給の面で課題を残した。

日本において電力事業は売電事業と大規模小売について自由化されてはいるものの、発送電分離まで行った諸外国と比べると今もなお新規参入には高い壁がある。2013年4月16日に安倍政権は広域電力取引を行う機関の設立を盛り込んだ改正電力事業法案を閣議了承した。同法案は今後の電力小売完全自由化、発送電分離を見据えたものとなっており、成立すれば電力の完全自由化に向けて大きなはずみが付くこととなる。一方で過去の海外の電力自由化の事例においては電気料金の値上げや不安定な供給状況といった課題も見られる。現在の日本の電力環境は高品質な電力の安定供給がなされており、産業システムもそれを前提として形成されている。電力自由化にあたってはこれら現在の日本のメリットを損なわない形での導入が求められている。

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3.各政党スタンス

基本的にはすべての政党が電力の自由化に賛成しているが、具体的方策等への言及については程度の差が見られる。発送電分離についてはすべての政党が言及している。

① 電力自由化推進派(民主党、公明党、みんなの党、維新の会、社民党)

民主党は「発送電分離について検討をすすめ、発電分野、小売分野などの自由化を断行」するとしており、与党時代から電力自由化のための法案作成に臨んでいた。みんなの党は2020年までの電力自由化を公約として掲げており、卸売市場の創設やスマートメーターの設置などの具体的な方策にも言及している。公明党・維新の会・生活の党・社民党も概ね同様に発送電分離による電力自由化を公約としている。

 

② 公約上明記はないが推進派(自民党)

自民党の安倍政権は現在改正電力事業法案の成立を目指しており電力自由化を目指している。一方既存の電力事業者が電力自由化に反対していることから党内の一部政治家からは反対意見も見られ 、党としての公約では「競争環境の中で電気料金を選べるようにする」という曖昧な表現にとどまっている。

 

③ 条件付電力自由化推進派(共産党)

共産党は発送電分離などによる電力自由化に賛成の立場だが、完全な市場原理に委ねることは適当ではないとしており、再生可能エネルギー普及のために様々な方策が必要だとしている。もっとも他党も完全な自由化は求めておらず、①グループの政党と実質的に同じ考え。

 

4.リンク集

・資源エネルギー庁「電力小売市場の自由化について」
http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/genjo/seido.pdf
・自民党再生可能エネルギー・省エネ関係団体連絡協議会「日本の電力システム」
http://www.jimin.jp/eco/condition/#category04
・経済産業省ホームページ「「電気事業法の一部を改正する法律案」が閣議決定されました」
http://www.meti.go.jp/press/2013/04/20130412001/20130412001.html
・国立国会図書館『調査と情報』「電力自由化の成果と課題」
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0595.pdf
・日本経済新聞2013年1月30日「電力自由化がつまずいた理由 新電力、わずか「3.5%」」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2300M_T20C13A1000000/
・電気事業連合会「電力自由化」
http://www.fepc.or.jp/enterprise/jiyuuka/index.html
・東京電力「電力自由化に関する東京電力の考え方」
http://www.tepco.co.jp/corporateinfo/company/jiyuuka/kangae/index-j.html
[1] 例えば各発電所単位で電力量の誤差を一定レベルに抑えるなど。再生可能エネルギーの場合発電量の変動が大きく、この条件を単独の発電所だけで満たすのは容易ではない。
[2] 『電力自由化』(高橋洋 日本経済新聞出版社 2011年)
[3] 高橋、前掲
[4] 国立国会図書館『調査と情報』「電力自由化の成果と課題」
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0595.pdf

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