2012年に新設された原子力規制委員会は現在原発再稼働のための規制基準案を作成しており、[1]「安全な」原発については再稼働を進める方針をとっている。同委員会はそれまで原子力の安全確保を所管していた原子力安全委員会と原子力安全・保安院を統合する形で新設された組織だが、これら組織によるチェック体制はこれまで有効に機能していなかったと批判されている。原発再稼働については一度揺らいだ原子力行政に対する信頼を取り戻すことができるかが問題となっている。
日本において原子力発電は、1955年に原子力基本法などいわゆる原子力三法の制定により大綱が決定された。その後1966年の東海第一原子力発電所が初の営業運転を開始、以来現在に至るまで沖縄電力を除く全国すべての電力会社と卸電気事業者である日本原子力発電株式会社が原発を運用してきた。近年は日本の総発電量の3割を原子力が担っていたが、東日本大震災以降の原発再稼働問題の影響から現在は福井県大飯原子力発電所を除き営業運転を停止している。
原子力発電所で発生した使用済み核燃料などは「高レベル放射性廃棄物」と呼ばれ、処理にあたっては50年ほどかけて冷却した後に地中奥深くに埋設する「地層処分」と呼ばれる方式がとられる。現在フィンランドのオルキルオト島で建設中のオンカロ最終処分場が世界初の最終処分場であり、2020年ごろから100年間放射性廃棄物を受け入れる予定となっている[2]。しかしその他の原子力発電所を運用する国で最終処分場を持つ国はなく、日本においてもその建設は未だ検討段階にある。
国内電力の1/4を原子力に頼ってきたドイツは、2000年に2020年までの脱原発を政府と電力会社が合意した。現在は福島第一原発の事故を受けてすべての主要政党がこれに賛成しており、代替エネルギーとしての再生可能エネルギーの普及に注力している。一方で、国際社会全体としては、福島原発事故があったにも関わらず、原発利用が拡大する傾向には変わりはない。ただし、拡大の中心は先進国から新興国に移り、メーカーは先進国中心で寡占だが、競争が激化しているのが、現在の国際動向である。事故後の国内情勢をどう調和させて政策を決めていくのか、というアジェンダセッティングが今後の争点となるだろう。
原子力発電とは、放射性物質が核分裂する際の熱で作った水蒸気でタービンを回して発電機を動かす発電方法である。少量の燃料で大出力かつ安定的な発電を行える特徴を持つが、一方で使用済燃料の処理など放射性物質を扱う故の危険性が存在する。日本においては高度経済成長に伴う電力需要の増大に応える形で原子力の導入を決定、現在までに18箇所57基の原子炉が建設されてきた。
しかし2011年3月に発生した東日本大震災では福島第一原子力発電所において炉心溶融と放射性物質の外部放出を伴う大規模な事故が発生、今後の原子力発電の利用に対して懸念が生じている。この事故では原発の技術上の欠陥だけでなく、原子力発電を所管する行政システムの制度的欠陥が存在したことが問題点として指摘されている。
従来日本の原子力行政は、政策を決定する原子力委員会(内閣府)と実行する資源エネルギー庁(経済産業省)という推進部門に対し、原子力安全委員会(内閣府)と原子力安全・保安院(経済産業省)というチェック部門が設置されていた。これらは各省庁や電力会社からの独立性が保たれていなかったことから規制機能が有効に作用していなかったとされ[6]、2012年に環境省の外局として設置された原子力規制委員会へと改編された。
現在の「原発問題」と言う政策課題には、「原発再稼働」と「脱原発」という2つの異なる課題が含まれている。まず原発再稼働は直近の日本の電力確保手段の問題である。2011年に政府は既存の安全基準では原発の安全性が確保できないとして、定期点検に入った原発の再稼働を認めない方針を取った。そのため2012年には一時的にすべての原発が停止、これにより夏のピーク時を中心に全国的に電力不足が生じた。今後もこの状態が続けば様々な産業に影響が出る可能性があることから、経済界などからは再稼働を求める声が強い[7]。
一方で脱原発は中長期的に将来の日本の電力供給体制をどのようにしていくかという問題である。電気はすべての産業に関わる基幹インフラであるため品質の高い電力の安定的な供給が最優先課題とされ、原子力発電はこれまではそのために必要な電源とされてきた。しかし福島第一原発の事故でも示されたように原子力発電が重大なリスクを内包していることも事実であり、震災後は再生可能エネルギーの普及による原子力発電の段階的廃止を求める意見が強くなっている。
原子力に限らず電力行政一般は高度な専門性を有する分野であり、一般市民がその内容の是非について判断することは極めて困難である。近年は脱原発を求めるデモや原子炉の新規設置をめぐる住民投票、民間有識者による福島第一原発事故調査報告書などの動きはあるものの、やはり高度専門的な分野の判断については政治や行政のシステムに頼らねばならない面が大きい。チェック体制については原子力規制委員会の新設で一応の改善を見たが、既存の組織体制の問題のみならず原子力や電力事業全般に対して政治行政はどう関わっていくべきか、という問題は依然として存在している。
原発再稼働について自民党は、公明党との連立政権合意の中で原子力規制委員会の新基準に従うとしており、実質的に原発再稼働を容認している。安倍首相は原発について「軽々に(原発を)ゼロにするとは言わない」と発言しており[8]、原発の廃止には慎重な姿勢。
日本維新の会は代表の橋下大阪市長が大飯原発の再稼働について激しい抵抗を行なっていたが、現在は橋下氏も党も原発再稼働には肯定的な立場。ただし将来的に2030年代には全原発を廃炉にするとしている。
公明党・民主党・みんなの党は、原発再稼働については自民党と同じく原子力規制委員会の新基準に従うとしており、事実上容認する立場。一方将来の原発については3党とも廃止を公約としている。
社民党はかつて再稼働を認める立場であったが、現在は「脱原発アクションプログラム2013」の中で即時の稼働原発ゼロを公約としている。生活の党・共産党も政権公約において同様の立場。