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いじめ問題

1.ポイント解説

① いじめは年間7万5000件以上起こっている

近年再び注目を集めているが、いじめは常に日本で議論されてきた課題である。文部科学省によると、「いじめ」とは、「当該児童生徒が一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」である。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。日本の小・中・高等学校において年間7万5000件以上起こっている。[1]児童1000人あたり5.6件以上あるとされているが、なかなか発覚しづらいといういじめの性質を考えるとこの数字は氷山の一角であると言われている。

 

② いじめは自殺や、犯罪につながるなど、副次的な影響も大きい

いじめはそれだけで大きな身体的・心理的なダメージを受けるばかりか自殺にもつながりやすい。いじめを受けた生徒の方が6倍自殺をしやすいという調査結果もある。[2]また、海外の例ではあるがコロンバインの銃乱射事件の実行犯はいじめられており、一つのいじめがより大きな悲劇を生むことを示唆している。

 

③ インターネット上のいじめの増加など、方法は多様化している

いじめは身体的なダメージを及ぼすもの(殴る、蹴る、髪の毛をひっぱる、傘等でたたく、「プロレスごっこ」と称して首をしめる等)、言葉で行なうもの(悪口を言う、笑い者にする、悪い噂・デマを流す)、集団で無視する等のものがある。また近年だとインターネット上でのいじめ(悪質な書き込み、個人情報の流出)等も顕在化している。[3]

 

④ 政策方針は、いじめは起こさせず、早期発見し、起きてしまったらケア

文部科学省は主に①そもそもいじめが悪だということを教える教育②いじめの早期発見・早期対応③もし起きてしまった場合のケア、を呼びかけている。 また、場合によっては加害者の出席停止のような対応もやむを得ないとしている。

 

2.詳しく知りたい人に

 いじめの原因は多岐にわたると言われているが、目立つ「差異」に基づくいじめが多いとされている。例えば、身体的なもの(太っている、痩せている、背が低い、身体的な障がいがある、肌の色が異なる)、能力的なもの(スポーツの成績、学校の成績)、バックグラウンド的なもの(帰国生、セクシュアル・マイノリティ、外国人)、性格的なもの(あまり話さない)等様々だ。[4]

 なぜいじめるのかということに関しては、議論がなされている。まず、子供に関しては他人の痛みを想像し、自分に降り掛かってきたとしたら、と想像する「他者性」「相互性」に欠けているという指摘がある。また、劣等感をはらしたい、自分のストレスのはけ口にしたいという動機でいじめがなされている場合もある。さらに、自分自身がいじめの被害者である場合は、加害者になりやすいという傾向も指摘されている。[5]

 よくある論点として、なぜいじめが無くならないのかという問いがある。理由は主に2つある。1つ目に、集団心理が働きやすいからである。人は多数派でいることを望み、自分がいじめられるリスクを回避しようとする。また、異質なものを排除して集団の結びつきを強めたいともされている。2つ目に、いじめが発覚されづらいため、起こりやすいという点がある。いじめはトイレ、先生が不在時の教室、インターネット上等監視の目が届かないところで行われているという理由もあるが、被害者も脅迫されていたりすることから声をあげづらいのである。[6]

 では、他国はどのような政策をとっているのだろうか。例えばニュージャージー州においてはいじめの発見から10日以内の報告書作成・学校区の教育長への報告・校長や保護者との協力が義務付けられている。オーストラリアのNGOは、「パワフル・ワード」(いじめられたときに痛切に感じた言葉)を教室で共有することを試みている。これにより、いじめの被害しやすくし、自分たちでいじめ問題を主体的に考えることを目指しているのだ。また、アメリカではいじめのロールプレイを行い、どのような対応が必要か生徒に理解させることをカリキュラムに導入している。また、教育現場の可視化を目的とした政策の一環として、スウェーデンはオンブズパーソン制度によりいじめの防止を目指している。[7]

【キーワード】いじめの集団心理、パワフル・ワード、オンブズパーソン

 

3.各政党スタンス

 

 

① 規範意識、加害者の罰則重視(自民党)

自民党は、そもそも子供がいじめを行わないような規範意識を養うための指導、刑法への通報に加え、加害者の出席停止などの罰則強化を掲げている。こういった内容を盛り込んだ法案を既につくり、国会で通そうとしている。

 

② 加害者のケア重視(共産党)

いじめに関して積極的にマニフェストで取り上げている日本共産党は、カウンセラーの設置に加え、いじめの加害者の「反省」をしむける教育を目指している。また、いじめの原因である競争を重視する教育方法に異議を唱えている。

 

③ いじめの責任者づくり重視(民主党、生活の党、社民党)

民主党と生活の党、社民党は学校にいじめの「主任」、教育委員会に「主事」をそれぞれおいて責任者とすることを目指している。犯罪や人権侵害にあたるいじめは警察や法務局への通報を義務付けるとしている。

 

④ その他(公明党等)

多くの党はいじめは問題だとは認識しているもの、他の党に比べると特徴的な主張はない。例えば、公明党はカウンセリングの導入などを目指している。

 

4.リンク集

・いじめと戦おう! http://www.ijimetotatakaou.com/
・学校たんけん隊 いじめ問題 http://www5d.biglobe.ne.jp/tanken/danger/dab-sum.htm
・文部科学省 いじめ http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302904.htm
・文部科学省 いじめ対策Q&A http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/040/toushin/07030123/001.pdf
栗原怜治(1985)『いじめを撃て』読売新聞社
小林剛(1985) 『いじめを克服する』有斐閣新書
産経ニュース 自民、いじめ対策法案を修正へ http://www.shijyukukai.jp/news/?id=6617
全国私塾情報センター いじめ対策法案提出へ、野党3党、来週にも
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130403/plc13040318260016-n1.htm
高橋祥友(1997)『自殺の心理学』講談社
奈良県教育委員会(2009) 「事例から学ぶいじめ対応集」http://www.pref.nara.jp/secure/39467/ijime.pdf
Kim YS, Leventhal BL, Koh YJ, Boyce WT “Bullying Increased Suicide Risk: Prospective Study of Korean Adolescents”. Arch Suicide Res. Vol. 13, No. 1, pp15-30. 2009.
NHK World Wave Tonight(2012) 「シリーズ 世界のいじめ対策② いじめからこどもを守る」 

[1]文部科学省 いじめ http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302904.htm
[2] Kim YS, Leventhal BL, Koh YJ, Boyce WT “Bullying Increased Suicide Risk: Prospective Study of Korean Adolescents”. Arch Suicide Res. Vol. 13, No. 1, pp15-30. 2009.
[3] いじめと戦おう! http://www.ijimetotatakaou.com/、学校たんけん隊 いじめ問題 http://www5d.biglobe.ne.jp/tanken/danger/dab-sum.htm
[4]栗原怜治(1985)『いじめを撃て』読売新聞社
[5]奈良県教育委員会(2009) 「事例から学ぶいじめ対応集」、学校たんけん隊 いじめ問題 http://www5d.biglobe.ne.jp/tanken/danger/dab-sum.htm
[6] いじめと戦おう! http://www.ijimetotatakaou.com/
[7] NHK World Wave Tonight(2012) 「シリーズ 世界のいじめ対策② いじめからこどもを守る」

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