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学力低下

1.ポイント解説

① 教育が国の将来に与える影響の大きさを再確認する必要性

教育は社会の宝である子供たちに大きな影響を与える。子供達のシビック・ミニマムを保障するばかりか、ひとりひとりの将来の可能性、さらには国を支える労働力まで規定している。数年前、「ゆとり教育」が導入されたが、それを修正する形でカリキュラムを増やす方向にある。また、「フィンランド・メソッド」が大きく取り上げられたことからも分かるようにどのような国を参考にするべきかという議論も活発だ。

 

② OECDの学習到達度ランキングで日本は順位を落としている

OECD生徒の学習到達度調査によると、日本の順位が下がったという報告がある。現に、数学は2000年時には1位だったが2009年には9位に、科学は2位から5位に順位を落としている。[1]また、数年前メディアにおいて「分数ができない大学生」のような極端な例がセンセーショナルに取り上げられたことも記憶に新しい。しかし、一方で国立教育政策研究所が行った教育課程実施状況調査では、2001年より2003年の方が正答率で上回ったという指摘もある。このような調査結果の違いには教育の習熟度をそもそも測るのが社会学的に困難であるという背景がある。

 

③ できる層とできない層が二極化した「ふたこぶラクダ現象」が起きている

しかし、どちらにせよ「学力格差」が拡大していることは指摘されている。学力の統計をとってみると、「できる層」と「できない層」の二極化が起こる「ふたこぶラクダ現象」が見受けられる。

この理由には、様々な指摘がなされている。まず、両親の学歴が高い方が子供の勉強への投資(塾、予備校等)をしている一方で、両親の学歴が低い家庭では「頑張っても認められない」と感じている層が多い。[2]つまり、親の学歴によって大きく子供のモチベーションが左右され、それが次世代に再生産されているという可能性がある。また、「ゆとり教育」によってカリキュラム、授業時間を削った結果、勉強する層はより塾等の時間が増えた一方で、勉強しない層は勉強に接する時間が減ったという指摘もある。

 

2.詳しく知りたい人に

 学力低下を考える上で、そもそも、個人の学力は何によって規定されているのかという問いをたてる必要がある。この際重要なのは、教育とは社会構造と密接に関連している点である。具体的には、教育と密接に関係する親との関係、先生との関係、ジェンダーバイアス、教える方法等を分析する必要がある。

 例えば、前述したような親の学歴や収入が子供への文化的資本(本、予備校等)の投資や、子供のやる気に強く関係しているという指摘は何度もなされている。また、先生の教育方法や能力にも相関関係があるとされ、事実小学校においては若手よりも20年以上教鞭をふるったベテラン先生のクラスは学級平均正答率が高いというデータもある。さらに、社会において男性の方が就職等において有利な側面があることから、男子生徒の方が学習に対する意欲が高いというジェンダーによる差異も認められており、ジェンダーステレオタイプを打ち破り全員に教育の意欲を高める工夫が学力低下に歯止めをかけるだろう。[3] 

 また、いかにいわゆる「落ちこぼれ」の層を救い上げるかが重要だとされている。一度勉強についていけなくなると、勉強とは前学年等の前提知識、思考様式を必要とするためさらに勉強についていけなくなってしまう。いわゆる「応用問題」を解くことが難しくなるのである。

 対策として、フィンランドにおいては各生徒にあわせて特別編入クラスを設定したり補習を設けたりしている。[4]「落ちこぼれ」をつくらないようにすることでOECDのランキングでも上位に位置しているフィンランドから学べることは多いにあるだろう。また、日本の一部の学校は基礎力の徹底として、ドリルや午前中の復習等を行なっているケースもある。

 さらに一歩踏み込むと、「そもそもどのような能力を学力とすべきなのか」という議論もある。現状で「学力」はペーパーテストをベースに測っているが本当にそれで良いのだろうか、というそもそもの問いもある。この問いは、「学力低下」を論ずる上で「そもそも学力は低下していない」という結論にもなりうるため、大いに考察が必要であると言われている。[5]

【キーワード】親の学歴、文化的資本、落ちこぼれ、フィンランド・メソッド

 

3.各政党スタンス

基本的にどの党も教育に関しては多かれ少なかれ言及している。多くの党において共通するのは、経済的援助(奨学金拡充等)の方針である。しいてあげるとすると、授業時間、カリキュラムを増やし、(脱ゆとり/ゆとり)競争を活性化するかどうかで意見が分かれているが多くの党は中道的立場をとっている。

 

① 脱ゆとり、競争教育(自民党)

自民党は、「脱ゆとり」を目指し、授業時間の増加、全国一斉学力テスト実施等を行おうとしている。文系の理数科目の必修化、英語力向上等を検討している。

 

② ゆとり、脱競争教育(日本共産党、社民党)

日本共産党はマニフェストにおいて「異常な競争教育」に歯止めをかけることを目指している。個人にあわせた教育方針で、学力テストの廃止を求めている。「ゆとり」を維持する点で賛成している社民党は週休2日制のまま、学校を「きずな」をつくる場にすることを目指している。奨学金等の拡充も行なおうとしている。

 

③ 中道

民主党は、少人数授業や教員の研修制度の導入をマニフェストで掲げている。また、大学の奨学金の拡充も謳っている。このようなスタンスは、公明党、みんなの党等でも基本的には共有されている。なお、日本維新の会は具体的に基礎学力の底上げ、習熟度別のアプローチ、教育の無償化等を目指している。

 

4.リンク集

・図録 学力の国際比較 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3940.html
・「学力低下」論争と「ゆとり」教育を検討する http://www.nippon.com/ja/in-depth/a00601/
・学力世界一!フィンランド教育成功の秘訣 http://allabout.co.jp/gm/gc/66209/
・確かな学力 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/genjo_c.htm
苅谷剛彦、志水宏吉編(2004)『学力の社会学』岩波書店
堀内都喜子(2008)『フィンランド 豊かさのメソッド』集英社新書
京都民報Web(2013)「危ない「教育再生」」http://www.kyoto-minpo.net/archives/2013/03/15/post_9391.php
時事通信(2013)「学力向上へ提言案了承=自民」http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130404-00000162-jij-pol
産經新聞(2012)理数学力改善 文科省「脱ゆとりの効果」http://sankei.jp.msn.com/life/news/121211/edc12121122040003-n1.htm

[1]図録 学力の国際比較 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3940.html
[2]苅谷剛彦、志水宏吉編(2004)『学力の社会学』岩波書店
[3]苅谷剛彦、志水宏吉編(2004)『学力の社会学』岩波書店
[4]堀内都喜子(2008)『フィンランド 豊かさのメソッド』集英社新書
[5]苅谷剛彦、志水宏吉編(2004)『学力の社会学』岩波書店

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