現在国会には480人の議員がいる。衆議院で法案を通す為にはこの内の過半数(240人以上)の賛成を必要とする。議員一人一人が、自分達が代表している出身選挙区の国民や出身政党の方針をはじめとする多種多様な利益を国会で代弁しなければならない。このため、法案を通す為には長時間に渡る利害調整が必要である。さらに昨今では「ねじれ国会」が問題となり、衆参両院での調整も必要である。このため国会での意思決定は遅く、機能不全に陥っていると言われることもある。議員定数を削減することにより、利害調整をする対象が減る他、可決に必要な人数も減る為、国会がより俊敏な対応が可能になりうる。
国会議員一人を国会に送り出すには、多くの費用がかかる。国会議員にも当然給料(国会議員の場合「歳費」と呼ばれる)があり、国が支払う。歳費には期末手当(ボーナス)も含まれ、これを合計すると約2000万円になる。また、議員活動の支援の為に「文書通信交通滞在費」1200万円が議員全員に与えられる。この文書通信交通滞在費は使用用途を説明する必要がない為、事実上議員の第二の給料となっている。また会派(政党をはじめとする議員から構成される団体)に所属している議員には「立法事務費」780万円が支給される。活動議員が一人でも会派と認められるので、実際には議員全員に支給される。また議員秘書の給料も一人につき最大1000万円が補助される。これらを合計すると議員一人当たり最大年約6900万円(議員秘書3人全員に1000万円支給した場合)がかかっている事になり、これが人数分削減できる。[1]
しかし、議員の人数を減らす事で民意が上手く汲み取られなくなってしまうことも考えられる。現在衆議院には480人の議員がおり、これは国民100万人につき議員が3.7人しかいないという計算になる。この値は既に低いが、議員定数を削減すればこの値はさらに低くなる。議員定数が減る事により、国民の持っている一票の価値は更に小さなものとなり、「国民主権」が遠のいてしまう。[2]
衆議院は現在「小選挙区比例代表並立制」を採用しており、小選挙区から選出される議員300名、比例代表により選出される議員180名の合計480名となっている。その制度的性質上、小選挙区制では大政党が比較的有利である。それに対して比例では小政党もある程度議席を確保する事が出来る。この為比例区を削減すると小政党が当選しにくくなり、どの選出方法を多く残すかで今後の政党の趨勢に関わりうるため、妥協が難しくなっている。
議員定数が現在の480になったのは平成12年総選挙以降である。それまで500人だったところを、比例区を20人減らし480人にした。480人は沖縄が返還されて以来最小の数字であり、これをさらに削減するのが今回の議員定数削減である[3]。
国会議員を削減すれば、確かに経費の削減は可能である。削減賛成の政党は40人前後の削減を求めており、これが達成されれば議員の歳費だけでもおよそ7億円削減出来る。しかしこの削減は歳費の減額、文書通信交通滞在費の減額など代替手段が存在するため、「経費削減=議員定数削減」とはならない。
経費削減と引き換えに、民主的正当性が大きく低下する可能性がある。上記のように、日本の100万人当たりの議員数は3.7人だが、これはOECD諸国の中で下から二番目に位置する。隣国の韓国は2倍近い6.2人、イギリスでは10.4人、二院制を採用している国のトップであるスロベニアでは100万人当たり45人もの国会議員がいる。尚余談だが、自身を民主主義の原点と主張するアメリカは日本より下の最下位(100万人当たり1.4人)である。[4]もっとも、人口100万人に対して何人議員がいれば民意を反映している、という定義が存在しない以上、この指標がどの程度民主主義を計る上で意味があるものかは疑問の余地は残る。
さらに、上でも述べたが、比例区を削減する場合は、少数政党の声は国会で反映されなくなり、大政党有利な環境が進みうる。これにより議会の効率は上がるかもしれないが、同時に少数政党が自らの意見を国会で出すのがより難しくなり、多様な意見が反映されづらくなる可能性もある。
また、国会議員を減らす事により、官僚が比較的強くなりうる。政治家の活動は多岐に渡るため、官僚が常にその補助をしている。政治家一人当たりの仕事量が増えれば、より多くの仕事を官僚に委託する事になり、結果的に官僚に対する政治家の監視が難しくなるかもしれない。
一票の格差に関しては、区割り変更によって一票の格差を縮める事が出来るのは確かだが、「区割り変更≠定数削減」という事も考えておかねばならない。定数をキープまたは増やすことにより一票の格差を縮める事も可能である。
共産党は全選挙区を比例代表制に移行するスタンス。社民党は少数政党が切り捨てられるとの意見から、議員定数削減、特に現行案として挙がっている比例区の削減には反対である。
自民党と公明党は両党合意に達しており、比例区を30人削減する事を目標としている。生活の党は比例区を80人減らすというスタンスである。
民主党は比例区50人、小選挙区30人の削減を目指している。日本維新の会は内訳は未だに不明だが、衆議院の議員数を現在の半分まで削減する事を目標としている。
みんなの党参議院の議員削減と、衆議院の比例代表制への移行を目指している。