民主党が2012年に提出し、現在審議が続いている「国家公務員制度改革関連4法案」は、官僚に対する政治家のコントロールを強める為の措置が数多く入っている。関連4法案には内閣による官僚の人事決定能力の掌握、公務員庁の設置、公務員への団体交渉権の付与などが盛り込まれている。内閣が官僚人事を掌握することで、政官関係で政治家を有利に立たせる他、現在人事院や総務省に分散している公務員に関する諸権力(予算決定、組織定員、採用など)を新たに設置する公務員庁に一元化することにより、官僚組織の透明化に繋がる。公務員には団体交渉権を付与する事により、人事院を通すことなく政治家と直接賃金交渉などを行なうことが可能となる。[1]
上記の公務員制度改革の他、公務員の給料を削減する法案も提出されており、こちらの方は既に可決されている。公務員の給料は現在「人事院勧告」に基づき行われており、去年の人事院勧告は災害復興の為に公務員の給料を0.23%引き下げるように提案していた。
しかし実現したのは給料7.8%減という大幅な引き下げであった。これを不服として一部の公務員が東京地方裁判所に提訴するなど、公務員の反発が強まっている。[2]
公務員制度改革で変わるのは国家公務員制度だけでなく、地方公務員制度も含まれる。地方公務員制度では団体交渉権、給料削減などが取り入れられる。また、国家公務員と異なり、地方公務員はこれまで政治的活動の制限がゆるいだけでなく、罰則規定も設けられていなかった。[3]この点を改善し、地方公務員の政治活動を国家公務員と同程度まで引き上げることも、今回の公務員制度改革に含まれている。
団体交渉権は給料の値上げ要求などを要求する団体を組織して行う交渉のことを指す。元々公務員は団体交渉権を持っておらず、これはILOなどの国際組織から広く批判を受けてきた。今まで団体交渉権が禁止されてきた理由として、公務員が団体交渉権と、その延長線上にあるストライキ権を行使すると、国家の機能が事実上停止してしまう恐れがあることが挙げられる。しかしフランスなどの一部の国家では、公務員にストライキ権が認められている場合もある。
団体交渉権が付与されていない代償として、公務員は身分保証が厚く、余程の事がない限り解雇、降格がない。公務員を解雇するためには人事官弾劾裁判という裁判官とほぼ同じ特殊手続きを取る必要がある。また退職した際民間企業に再就職する天下りが存在し、実質公務員をやめた後もその身分が保障されているという批判がある。公務員制度独特の「アップorアウト構造」(昇進するか天下りするか)は官僚組織の硬直化に繋がっている他、多くの国民の非難の的となってきた。[4]
今回の公務員制度改革はこのアップorアウト構造を修正する目的がある。官僚人事を公務員庁に一元化することにより、これまでの官僚の身分保証を撤廃し、昇進、降格、解雇を容易にする。それだけではなく官僚を横断的に移動させることで、癒着や縦割り行政など現在日本の行政組織が抱えている弊害の改善が期待される。従来の身分保障制度を撤廃する事と引き換えに、今回公務員にも団体交渉権を付与する要項を盛り込んでいる。
一方で、官僚に対する政治家のコントロールを強め過ぎる事により、官僚が「政治化」してしまう懸念もある。三権分立からも分かるように行政組織は本来立法(政治家)から独立している、つまり政治的中立を保つべき機関である。日本が採用している議院内閣制は元々立法と行政の間の分立が薄い為、官僚の政治的中立性にはより注意を払わねばならない。[5]政治家が権力を握りすぎることで、官僚が政治家にとって都合の良い政策を優先するようになりうる他、政治家もその様な者を優先的に登用してしまう可能性がある。今回の公務員制度改革は、官僚が独立している事によって確保される専門性と官僚の民主的コントロールのトレードオフをいかに調整するかを問う改革であると言って良いだろう。
民主党は、公務員を政治化のコントロール下に置く事に主眼を置いている。自民党と公明党は民主党案と同時に大幅な人件費削減を行い、公務員の定数も減らす予定である。みんなの党、維新の会は大幅な公務員の人件費と人数を削減し、地方分権を進める事を提案している。
共産、社民の二党は官僚に団体交渉権などが与えられていないことに強く反対し、公務員の労働環境を守るという立場からの公務員制度改革を提唱している。