水産物に対する世界的な需要の高まりを背景に、多くの国が漁業生産を伸ばしている。1970年頃まで年間100万t以上を生産する漁業国は十数カ国であったのが、現在では24カ国(2010年)となった。とりわけ中国の漁業生産の増強は目覚ましく、04年には5000万tを超え、10年には、世界の生産量の1億6800万tの38%を中国1国で占めるまでになった[1]。
日本国内は魚離れが叫ばれて久しいが、中国国内では中産階級の増加や健康食品ブームに伴い魚食がブームとして巻き起こっている。そうした中で安い賃金で操業できる大量の中国船が日本近海にも押し寄せ、最近では日本漁船が東シナ海を中心に競争力で負けるなど、日本の漁業は衰退に拍車がかかっている。日中共同水域での資源管理を中国側に打診しているものの、中国側からは拒否されている。操業する日本漁船が国境近辺の不審船を通報するという役割を担っていたが、日本漁船数の減少により、中国漁船が日本国国境の内側で不法に操業する事態が高まっているということも懸念されている[2]。
日本の漁獲量は、戦後、急成長を遂げたが、1984年に1282万tのピークに達したのに急速に減少し、最近は500万t台まで落ち込んでいる。80年代に豊漁が続いたマイワシが全体の漁獲量を底上げしたが、マイワシを除けば漁獲量は減少しており、その傾向は70年代の半ばから始まっている。三重大学の勝川俊雄教授は、その原因として日本漁船の乱獲にもあると主張している。
現在の漁業産業は既存の体制では立ち行かなくなっている。日本は漁業大国といわれてきたが、日本の漁業は危機に瀕している。戦後直後には100万人以上いた漁業人口は、60年間で漁業者は20万人まで減少し、このうち3分の1が65歳以上になるなど高齢化も急速に進んでいる[3]。生産金額も漁獲量がピークを記録した1984年には約3兆円であったが、現在では1兆6000億円まで落ち込んでいる現状も見られる。
日本の漁業の戦後の急速な衰退の原因として、以下の3点が挙げられる。まず一点目は、日本人自身が漁業を持続可能に行うための環境を破壊してきたからである。例えば我が国の漁業者自身によって日本周辺の有益資源が乱獲され、資源管理型漁業(過度な漁獲競争や乱獲を防止して資源の維持•増大を図りつつ、資源からできるだけ多くの付加価値を獲得する漁業[4])を行う環境が整っていなかった。漁場が失われただけではなく、沿岸域の干潟や藻場といった漁業資源を育てるために必要な環境が、工業中心の高度経済成長を優先させるあまり戦後50%以上が埋め立てられた。これにより海洋汚染や生態系の破壊ももたらされることとなった。
第二点目に、水産物の輸入が自由化されることで、日本産の水産物が日本市場から次第に駆逐されたからだ。価格の安い魚介類が海外から大量に輸入されることで、漁業資源に関する自給率は半分に低下した(113%(1964年)→59%(2006年))。特に中国などの新興諸国や東南アジア圏からの輸入量の増加は大きく、非常に安価な輸入品が日本市場を席巻している。
第三点目に、日本の漁業資源を守る法整備が諸外国と比べても大きく遅れているからである。アイスランド、ニュージーランド、オーストラリアなどではTAC(総漁獲可能量)制度の下で、IQ(個別漁業割当)とITQ(譲渡可能個別漁獲割当)を導入し、資源管理に成果を挙げている。前者は設定された漁獲可能量をあらかじめ漁業者あるいは漁船ごとに個別に割り当てる方式[5]であり、後者は個別に割り当てられた漁獲量に譲渡性を持たせること[6]である。日本は定められた総漁獲量に達するまで、早い者勝ちで漁獲する方式(オリンピック方式)を基本的に採用している[7]ため、手当り次第に漁業を行うインセンティブが働く。結果的に成長しきれていない魚も捕獲しようとする乱獲が進んでしまう。日本の場合わずか7種類に総漁獲可能量が設定されているだけで、残りの数十種類の有用魚種には設定すらされていない現状がある[8]。
こうした現状に追い討ちをかけるように、消費者の魚介類離れも起こっている。厚生労働省が発表する国民健康・栄養調査報告によれば、国民一人あたりの魚介類の摂取量は01年以降継続して下降している。06年には初めて肉類の摂取量を下回る結果となり、それ以降も両者の差は拡大し続けている[9]。一方、農林水産省の水産物調査では、約6割に上る人が「水産物の方が肉類より健康によい」と回答したことから、日本人が魚介類そのものを避けるようになったのではなく、家庭での調理離れが魚離れを引き起こしているという分析結果もある[10]。
2012年衆院選での各政党のマニフェストを見ると、TPP交渉参加の是非が問われたこともあり、農林水産業についての記述が多い。しかしそれはたいていの場合が農業分野に偏っており、漁業分野については争点になるどころか記述がほとんどない政党も目立った。抽象的な表現に終始して具体的な政策まで練られておらず、漁業分野への関心は決して高いとは言えない。漁業分野に関しては政党間の政策論争が見られなかったので、政策マトリックスは作成せずに、各政党の選挙公約を以下に整理する。
公明党は、他政党と比較して最も漁業分野に言及しており、水産エコラベル政策の導入や、TAC(総漁獲可能量)の中期改訂ルールによって水産資源の管理という具体的な政策への言及もあった。みんなの党は、記載内容に関しては少ないが、漁獲量を科学的に管理し、乱獲を防止したり、品質管理を向上させたりして日本漁業の復活について言及している。共産党は、資源管理型漁業で、水産物の安定供給を図ると同時に、漁業の生産コストの大きな比重を占める燃料費に関する減免措置を恒久化することを主張する。
民主党は、農林漁業の6次産業化を目指し、2020年度までに「魚介類(食用)自給率70%」をめざし、路網整備、森林施業集約化、省エネ・省コストな漁船導入、漁業協業化を推進すると主張している。数値目標まで記載されている唯一の政党であったが、当該目標の達成のために向けた具体的な政策までは提示されていない。自民党は、水産分野に関しては「多様な消費者ニーズに対応する水産物の消費拡大、漁業普及への取り組みを強化」するという言及はあるが、当該部分のみの記述に留まり、漁業分野に対する関心が高いとは言えない。