ネットの書き込みは図書図面と解釈されるので、候補者自身や政党だけでなく一般有権者さえも、具体的政党名や候補者名を出して情報発信や投票呼びかけを行うことは、従来の公職選挙法では一律禁止になっていた。したがって、選挙活動は候補者本人による一定のビラやはがきなどの手段を通じて以外は認められていなかった[1]。今回の改正でインターネットでの選挙活動が解禁されたことで、選挙活動の金銭的負担を軽減させる効果があるとも言われる上に、Facebookやtwitterを使っての市民との直接対話も可能になる。また電子メールを使って、政党や候補者が投票を呼びかけることも可能になる。ただ、迷惑メールが横行して見ず知らずの人に大量のメールが届くことを防ぐために、一般有権者からの送信は認められず、政党や候補者が電子メール送信をできる対象も制限がある。
2013年参院選から新しい枠組みが導入されるため、各党とも、IT業界の講師からブログやSNS(ソーシャル•ネットワーキング•サービス)を含むインターネット技術を活用した選挙戦略についてレクチャーを受けたり、立候補予定者を対象にした研修会を開いたりしている[2]。専用の動画サイトを開く党もあれば、政治家個人としてFacebookやtwitterの公式アカウントを取得する動きも活発化するなど、政党と個人がともに準備に追われている[3]。ソーシャルメディアを利用して、特定の有権者層に狙いを定めた上で資金を集めたり、自陣営への投票を促したりという戦術も可能になり、時代に即した新しい選挙戦術が次々に誕生することが期待される[4]。しかし一方で、従来の選挙スタイルを重視する姿勢を崩さない議員も散見され[5]、今後も急速な変化から目が離せない。
総務省によれば、改正公選法では、選挙中のバナー広告の利用を「政党(支部を含む)」が行う「政治活動」に限って認めている[6]。つまり候補者個人によるバナー広告の掲載は、広告合戦が広がることを防ぐために禁止されており、政党に属さない無所属の候補らはバナー広告を選挙活動に用いることができない。しかも、選挙ごとに定められる「支出上限額」の制限の対象外なので、政党の資金が許す限り広告をいくらでも出せるという金権政治を助長してしまうという懸念もある[7]。
ITmediaニュース(2013年4月22日)より引用
旧公職選挙法は、表現の自由から保障される「政治運動の自由」と「選挙活動の自由」を侵害しているとの指摘が従来からあった。旧公職選挙法では、選挙運動と政治活動を明確に分類し、前者を「特定の選挙に、特定の候補者の当選をはかること又は当選させないことを目的に投票行為を進めること」とし、後者を「政治上の目的をもって行われるいっさいの活動から、選挙運動にわたる行為を除いたもの」と取り決めている。
旧公職選挙法では、この選挙権が「選挙の公正」という目的の下に大きく制限されていたことが問題視されていた。例えば、選挙運動におけるインターネット利用は、「選挙運動のために使用する文書図画」(公職選挙法第142条第1項)や「選挙運動の期間中において文書図画の頒布又は掲示につき禁止を免れる行為の制限」(同法第146条)に当たると解釈され、制限されてきた[8]。そして現在の公職選挙法でも、公示日前の選挙運動を依然として禁止している。この規制の目的は、無用な競争を排除することだと説明されるが、一方で候補者の主張や人となりを知る機会を減らし、結果的に知名度がもともと高い候補者が有利になるという側面も併せ持っている[9]。
選挙権は民主主義の根幹に関わる非常に重要な権利であり、国民一人ひとりが代表者を選ぶ選挙制度を貫徹させるためには、この大きく制限された選挙権を大幅に開く必要があるとの気運が高まったのである。特にインターネットは既に社会インフラとして十分に機能している現状があり、そのインフラの活用を不当に制限していた従来の状況は、遅かれ早かれ是正される運命にあったともいえる。
上述の潮流を受けて、インターネットを使った選挙運動を解禁する公職選挙法改正案が2013年4月19日の参院本会議で、全会一致で可決・成立した[10]。夏の参院選から適用され、一般有権者も含めてブログ、ツイッター、フェイスブック等のSNSを使った選挙運動も全面的に解禁になる。ただ、「電子メール」については、全面解禁は見送られ、選挙運動用の電子メールを送信できるのは候補者と政党のみに限定された[11]。また候補者や政党も、名刺交換をした人やメールマガジンに登録している有権者に限られるなど、依然として制限が多い[12]。
全面的に規制緩和を進めた場合、誹謗中傷や候補者の成り済ましに起因する問題が引き起こされることが懸念される。実際に、昨年12月に実施された韓国の大統領選挙では、中央選挙管理委員会の「サイバー選挙不正監視団」が7000件超の不適切なネット投稿を削除した[13]。今回の法改正では、政党や候補者も、発信するメールには政党名や候補者名を表示するように義務づける等、対策も進められる予定である。
みんなの党は、ネット選挙に関して選挙活動に利用するだけでなく、パソコンやスマートフォンを使ったインターネット投票を目指す方向性をマニフェストで明らかにしている。民主党は2012年衆院選マニフェストでは、ネット選挙運動の解禁は箇条書きで述べる程度に留まっていた。しかし民主党とみんなの党は、2013年4月19日に成立した改正公職選挙法とは異なり、投票を呼びかける電子メールを有権者に送信できる主体を政党と候補者に限定せず、「全面解禁」を盛り込んだ別案を提出していた。安倍政権が提出する与党案よりも選挙規制が少ないため、積極派に分類できる。
自民党、公明党、維新は2012年衆院選の時からネット選挙を争点にしていた。しかし今回の法案ではメール送信を政党と候補者に限定する等、慎重な中身になっていることから、積極派よりの中立派と位置づけた。日本共産党は、選挙活動規制としての性格を持つ公職選挙法の改正について触れ、選挙権の18歳引き下げの方向性を打ち出しているが、ネット選挙に関する記載はほとんどなかったため、消極派よりの中立派として位置づけた。社民党もネット選挙の解禁は公約の中に記載されている。
生活の党は、公職選挙法の改正やネット選挙の是非に関する記述は見当たらず、改正に対する関心が見当たらなかった。したがって、改正消極派に位置づけた。