沖縄は東アジア全域特に現在紛争の可能性がある台湾や朝鮮半島を臨む位置にあり、アメリカの世界戦略的にも重要な地域となっている。日米安保条約は日本の安全に加え「極東における国際の平和及び安全」のための米軍駐留を認めており、東アジアで紛争が起きる可能性がある限り米軍が沖縄から完全に撤退する可能性は低い。
戦後長らくアメリカの占領地であった沖縄の基地は固定化が進み、結果として日本における在日米軍施設・区域(専用施設)の75%を抱えてしまっている[1]。ただし面積の大半は一般には利用価値の低い原生林の演習場が占めていることから、面積上の問題だけでなく騒音公害や危険な演習、米兵犯罪など米軍駐留自体がどの程度沖縄県民に負担を与えているか、本土に比べて特に危険な施設が集中していないかという実質面でも考慮される必要がある。
現在返還問題で揺れる普天間基地だが、1995年に日米間で在沖米軍再編が議論され始めた頃には返還の対象とはなっていなかった。当時沖縄の負担軽減策として主題に上がっていたのは那覇港湾施設と読谷飛行場の返還および県道104号線越え実弾砲撃演習の中止の3点であった。しかし1996年の日米首脳会談で当時首相だった橋本龍太郎が普天間基地問題に言及、ここに普天間基地の返還が方針となった。
2006年に「再編実施のための日米のロードマップ」が合意された。海兵隊の一部兵力がグアムや岩国へ移転、同時にいくつかの米軍敷地を返還するもので、これにより返還される地区としては普天間基地の他に那覇港湾施設・牧港補給地区・キャンプ瑞慶覧・キャンプ桑江などが挙げられた。これらの総面積は1000ha以上に上るが、沖縄県における米軍基地の割合としては約3%と微々たるものである。とはいえ人口密集地に存在するこれら基地の返還が周辺自治体に与える効果は決して小さくない。
沖縄の米軍基地問題は多様なアクターが存在し、また問題が多岐にわたっていることから争点が非常に難解になっている。ここでは簡単に普天間基地移設をめぐる近年の経緯を概説した上で、その解決を困難にしている要素について触れたい。
現在の基地移転の動きは1995年の米兵による少女暴行事件に端を発している。これにより沖縄で基地反対運動が高まりを見せ、日米両政府は1996年に普天間基地の移転条件付き返還について合意した。飛行場の移転先は2006年に辺野古周辺に決定、地元沖縄県の仲井眞弘多知事・名護市の島袋吉和市長もこれを容認した。しかし2009年の政権交代で誕生した民主党の鳩山政権は移設先について迷走、結果仲井眞知事が反対に回るなど沖縄の失望と反発を呼ぶこととなった。2012年に成立した安倍内閣は辺野古移設を推進しており、2013年4月現在では「普天間飛行場については2022年度以降に返還」としている[2]ものの、地元の同意は未だ得られていない。
沖縄に限らず軍の基地には常に反対運動がつきまとう。それは軍隊が「安全保障」という一般市民が効果を実感しにくい目的で存在していること、さらに周辺住民にとっては受忍限度を超えた様々な被害が発生する場合が多いことからである。これら特徴がしばしば中央政府同士、もしくは地元との対立の原因となり問題解決を困難にする。沖縄の基地問題の場合アメリカは戦略的見地から沖縄という地域を重要視しており、基地再編についても安全保障的価値が損なわれないことを最優先としている[3]。一方日本政府や沖縄は前提として在沖米軍の意義について理解しつつも、基地の再編にあたってはいかに沖縄の負担が減るかを重視している。沖縄の基地負担軽減が検討された当時は冷戦終結直後であり、米軍は世界情勢に適応する形での再編の必要に迫られていた。一方日本政府は沖縄での基地反対運動に対して行動をとる必要があったことから両者の思惑は合致、普天間基地の返還合意に至った。しかし代替地候補選定においては上記の日米の価値観の相違から辺野古案への決定までかなりの時間を要した。
沖縄の米軍基地について喫緊の課題は危険性の高い普天間基地の移設だが、他にも米軍基地に関する問題は数多い。新型輸送機オスプレイの配備や慢性的な飛行場周辺の騒音問題、頻繁に発生する米兵による犯罪など、沖縄において米軍基地は常に課題として存在し続けている。一方で基地は地元に一定の雇用を生み出しており、また基地対策として各自治体には国から基地交付金や特定防衛施設周辺整備調整交付金等が支給されるなど米軍基地は沖縄の経済とも密接に関わっており、地元沖縄でも基地に対する評価は様々である。
普天間基地の恒久化についてはすべての政党が望ましくないこととしている。その上で辺野古への移設や在日米軍の規模についてはいくつかの立場が見られる。
現在の日米合意を維持し、普天間基地への辺野古移転とグアム移転などによる沖縄の基地負担の低減を志向する立場。自民党は政府として辺野古移設を推進しているが、自民党沖縄県連は県外移設を主張している。
民主党は与党時代に辺野古移転を進めており、自民党の政策にも理解を示している。
みんなの党は米軍基地問題について安全保障や基地負担の軽減の観点からアメリカ・沖縄双方との関係改善を求めている。
日本維新の会は橋本代表が一時期関西国際空港への移転等に言及していたが、現在は「維新として代替案は持っていない」と述べており、現政府の辺野古移設に賛成する立場である。
辺野古移設については県民の反対の声を反映し反対。移設先については「アジアにおける米軍のプレゼンス維持」を前提とした県外・国外移設を提示。
県内移転について米軍基地の恒久化・沖縄の負担の維持につながるとして反対の姿勢。普天間基地については即時・無条件に返還されるべきとしている。
マニフェストについては、共産党が普天間基地の即時返還にのみ言及、社民党は県外移設と国外移設を併記。社民党は「日米同盟を維持するとすれば沖縄に負担を押し付けるべきでない」としており、文面上は在日米軍自体に一定の理解を示している。
ただし党として具体的に辺野古以外の代替地案を明示しているところはない。(個人レベルでは様々な代替地案についての発言が見られる)