集団的自衛権は国連憲章上国家の所持する固有の権利とされている。しかし日本はそもそも憲法第9条によって自衛権の行使につき極めて厳格な基準を設けており、集団的自衛権は憲法の定める自衛権の範囲を逸脱するため行使できない、というのが現在の政府見解となっている。つまり「国連憲章上権利として所持しているが憲法上行使はできない」という解釈である。
現在の日米安全保障条約は米国のみが集団的自衛権を行使すると定めている。2006年に首相に就任した安倍氏はこれを「片務的」であるとして、対等な日米関係構築のために日本も集団的自衛権の行使を行えるようにすべきと提起した。そして第一次安倍内閣は首相の下に「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を設置し本格的に検討を開始、現在の第二次安倍内閣も同懇談会を設置しており今夏の参院選前に報告書を提出する予定となっている[1]。
集団的自衛権容認に対しては「日本がアメリカの戦争に巻き込まれる」という反対意見が根強い。しかし実際に行使できるようにするには、憲法解釈で集団的自衛権の行使を認めた上で条約を締結もしくは改正し、行使する国や条件について別途定める必要がある。勿論集団的自衛権に関する解釈変更は実際の行使への第一歩となるが、アメリカの戦争に巻き込まれるかは日米安全保障条約など個別の条約上の問題であり、集団的自衛権の容認で直ちにそのような状況が発生するわけではない。
集団的自衛権容認の根拠の一つに「北朝鮮や中国から米国へ向け飛翔する弾道ミサイルを日本が撃ち落とせるようにするため」というものがある。しかし地球儀で見ればわかるように両国からアメリカ本土に向け飛翔する弾道ミサイルはそもそも日本の周辺を通過しない[2]。ハワイやグアムが標的である場合は確かに通過するが、その場合も第7艦隊や各島の防衛部隊[3]が対処にあたるため米国には日本のミサイル防衛を頼る必要性がなく、集団的自衛権が問題となる余地は少ない。
集団的自衛権とは、ある国家が武力攻撃を受けた場合に直接に攻撃を受けていない第三国が協力して共同で防衛を行う国際法上の権利である。国連憲章第51条は集団的自衛権を個別的自衛権と共に「国家に固有の権利」としてその行使を各国家に認めているが、実はこの概念は国連憲章成立まで一般的な概念ではなかった。国連がわざわざこのような概念を導入したのは、拒否権によって安全保障理事会が機能不全に陥った際に、少なくとも侵略を受けた国の周辺国が反撃を行えるようにすることで集団安全保障体制を補完する目的があったためである。代表例は北大西洋条約機構(NATO)や日米安全保障条約であり、冷戦期には抑止力を構成する重要な概念であった。
日本政府は国会答弁などで、憲法9条との兼ね合いから集団的自衛権は認められないとする立場を表明してきた[4]。ところが2006年に成立した第一次安倍内閣では首相自らが集団的自衛権の容認に言及し解釈変更が現実味を帯びてきた。最大の理由は安倍首相を始めとする政府のメンバーが「日米安保条約は集団的自衛権行使をアメリカだけに課した片務的な条約であり、対等な日米関係を築くためには日本も行使できるようにすべき」[5]と考えていることにある。2008年に提出された「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会 報告書」は、日本が集団的自衛権を行使する具体例として、公海上で日艦船とともに行動している米艦船が攻撃された場合・米国を目標とした弾道ミサイルが発射され日本が捕捉した場合の2つを挙げ[6]、これらについては集団的自衛権を容認しなければ解決できない問題としている。
しかし集団的自衛権の容認については反対意見が根強い。一番の理由は米国の戦争に「巻き込まれる」可能性があることである。米軍の行動はイラク戦争における先制攻撃など国連でも問題となるケースが多く、無条件にこれに追従することは日本の外交的立場に影響を与える可能性がある。また日本はすでに基地の提供や周辺事態法などで事実上協力しており、集団的自衛権の容認はこの強化につながるという意見もある。
もう一つは自衛隊の海外派遣の拡大に対する懸念である。これまで政府はPKOへの自衛隊派遣やインド洋での補給任務など、機会ごとに特措法を作って自衛隊の海外派遣を行なってきた。しかしここで集団的自衛権を認め恒久的な憲法の解釈変更を行えば、無秩序に自衛隊の海外派遣が拡大していくのではないかという疑いがもたれている。
弾道ミサイルの脅威や自衛隊の海外派遣など、日本をとりまく安全保障体制は冷戦期とは様変わりしており、「日本がアメリカを守る」というかつては想定されなかったような事態が真剣に検討されるようになった。それに呼応する形での集団的自衛権容認論である以上、その検討にあたっては日本の安全保障体制を今後どのようにして確保するのかという観点が必要とされている。
政権与党である自民党は集団的自衛権を容認するとしている。その方法については今のところ「憲法解釈の変更」「憲法の改正」の双方が上がっている。日本維新の会・みんなの党も同様の公約を掲げている[7]。
生活の党は2012年9月発表の「基本政策 検討案」の中で「国民の意思に基づき立法府においてその行使の是非に係る原理原則を広く議論し制定」としており、基本的に容認の立場。民主党は与党時代に集団的自衛権行使を容認する立場を取っていたが、一部メンバーは反対もしくは慎重な立場をとっている。
公明党は政権与党ではあるものの、代表が「にわかには変えるべきではない」と発言しており容認には慎重な立場をとっている[8]。
共産党・社民党とも集団的自衛権の行使を容認することは憲法9条に反し、諸外国との信頼関係を損ねるとしている。共産党は日本はそもそも集団的自衛権自体権利として保有していないとしている。またそもそも日米安全保障条約自体破棄すべきとしている。