3月15日に安倍首相がTPP(環太平洋経済連携協定)への参加を表明し、アメリカを始め各国の同意が得られる公算が高く[1]、7月の交渉会合からの参加が見込まれている。TPPに加入することで各国との貿易が活発化し、アジアの成長を取り込み、GDPの0.66%、3.2兆円の経済効果があると見込まれている[2]。現在、各国間での経済協定が進み、隣国韓国もアメリカを始め積極的に経済協定締結を進めており、競争力を維持する上でも重要とされる。また、更に広範なアジア太平洋地域での経済協定(FTAAP)へのステップとして捉えられており、早くから参加してルール作りに参加することも重要とされる[3]。更には、日米間の関係を深めることでの安全保障上の効果も指摘される。
現状、米には778%の関税がかけられるなど、農業生産物は手厚い保護で国際競争から守られてきた。聖域が一定範囲で認められうるものの、貿易拡大に進むことに変わりはなく農産水産物の生産額は3兆円減少すると試算されており[4]、補償などの対策が必要となっている。一方でこれを日本の農業を強くする好機とする見方もある[5]。また、アメリカでの自動車への関税の当面の維持、保険事業などでのアメリカとの並行協議が行われることが日米間の事前協議で合意するなど[6]、日本側にも一定の制約は付されることになり、当初の試算ほどの経済効果が上がらないとの見方も出ている。更には食の安全や訴訟の増加への懸念も存在する[7]
中国韓国とのFTA締結に向けた交渉も2012年11月、ASEAN関連首脳会議の際に立ち上げが合意した[8]。中国は日本の最大貿易相手国であり(21%)、韓国も3位(6%)となっており、両国との貿易自由化は影響が大きい。特に日本の自動車、工作機械などに両国は高い関税をかけており、交渉締結で工業製品の生産、販売増加が期待される[9]。
TPP、日中韓FTAだけでなく、ヨーロッパとのEPAの交渉の開始も2013年3月25日安倍首相が電話会談で合意した。また、オーストラリアとのEPAも進展を見せ、モンゴル、カナダ、コロンビアとのEPA交渉を進めるなど多方面での動きが活発化している。
TPPの加入国は下の図に示したように11か国ある。当初はシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4か国で2006年に始まったものであったが、アメリカなどが参加し拡大、さらに2012年にメキシコ、カナダの参加が決定し、11か国となっている。将来的にはアジア太平洋地域全体での自由貿易圏構想(FTAAP)に繋げて行くことが想定されており、中国などを見据えた主導権争いの側面もある。関税撤廃のみならず、投資の保護、サービス貿易、知財など幅広い分野を含み、関税撤廃に関しても原則として全品目を対象とする。一方で「両国ともに二国間貿易上のセンシティビティが存在すること」が2013年2月の安倍首相とオバマ大統領の首脳会談で確認された。現在すでに交渉が進んでおり、2013年中の交渉妥結を目指している[10]。
他のEPAに関しては、日本はすでにシンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルーの計13の国と地域とEPAを結んでおり、さらに先述のように日中韓FTA、EU、モンゴル、カナダ、オーストラリア、コロンビア、トルコなどの各国と交渉を進めることで合意しており、経済の自由化へ向けた動きが活発化している。
貿易の自由化のための交渉の場としてはWTOが存在するが、各国の利害の一致が難しく、ルール整備の進展が遅いため、90年代以降FTA、EPAによる貿易のルール作りが進んでいる。WTOは世界の貿易の無差別な自由化を促進することを原則とするが、FTAやEPAについても貿易の高度な自由化を推進することに寄与するのであれば例外的に認めるという立場をとっている。
維新は自由貿易の促進、TPP、FTAの拡大を掲げ、自民党を消極的と批判するなど、明確に促進を進める姿勢を示している。みんなの党も「日本開国宣言」を掲げ、自由化を強力に推進することを主張する。
自民党は経済協定については積極的に取り組むと明記しており、TPP参加を表明するなど積極的な姿勢が基本線となっているが、聖域なき関税撤廃に反対するなど党内の反対も強い。民主党も守るものは守りながら積極的に進めるという反対派に配慮しつつも前向きな姿勢となっている。公明党はFTAは賛成ながらも昨年の衆院選挙では議論をしっかりと深めるべきという中立的な立場をとった。
生活の党はTPPには反対するものの自由貿易は促進するためFTAは賛成という立場をとっている。
社民党はTPPを「国民生活や中小企業を苦しめ」るとしてに反対、FTAなどの促進にも距離をとる。共産党もTPPは「亡国の道」として反対、「お互いの国の国民の暮らしと権利を守るルールを尊重しながら、貿易や経済関係を発展させる」とし、FTAなどとも距離をとる。