安倍内閣は規制改革会議を設置し、積極的に規制緩和に乗り出している。不断の規制改革を掲げ、医療分野などでの規制緩和を積極的に進めている。また、規制の必要性検証を外国との比較で行う国際先端テストを行い、「(省庁から)合理的な説明が出来なければ規制そのものを変えるべき」[1]というような大胆な規制緩和を模索している。
同時に産業競争力会議も設置し、「世界一ビジネスをしやすい事業環境を実現するため」の目玉政策として特区制度を準備している。内容としては都営バスの24時間営業化、法人税の引き下げ、ビルの容積率の緩和、有料道路の運営権売却、農業拠点特区などを各地で実施することを検討している。
規制緩和の推進派は規制を緩和することにより、企業が自由な行動を行いやすくなり、新たな市場の創出に寄与すると主張する。また、規制緩和はより良い条件を求める企業の誘致に繋がり、医療創薬の規制緩和で議論されているように開発の障壁を減らすことで国際競争力を高めることができるとする[2]。
規制緩和によって様々な活動が行いやすくなる一方で、規制は本来何らかの利益、権利を保護するため、秩序を維持するために存在するものであり、個人の利益の保護が弱まる可能性もある。保育所の保育士人数などの規制の緩和に対しての「子どもの安全が守られない懸念がある」とする意見書の提出[3]、解雇規制の緩和がリストラの増加など労働者の切り捨てに繋がるという批判[4]、個人情報の保護が緩むという指摘[5]などが上がっており、これらの懸念に如何に答えていくかが問われる。
戦後の日本の経済発展は通産省主導の産業政策を通して成し遂げられたと主張されるなど[6]、この政府の介入が機能していたのかについては議論があるものの、政府が産業の保護、育成のために様々な規制などを用いてきたことは広く知られる。しかし、これらの制度は時間が経過し機能を果たさなくなるにつれてむしろ害悪であるというような主張が登場し、1990年代以降の改革の流れの中で規制緩和が改革の一つの大きなテーマとなった。特に小泉政権下では規制緩和三か年計画を立てて[7]、酒類の販売の免許の規制緩和[8]などの新規参入の障壁を取り除き、株式会社による農地経営を可能にし、1円から株式会社立ち上げを可能にし、人材派遣の規制を緩和するなど、様々な規制緩和を集中的に行った。これらの改革は小泉政権期の高支持率に見られるように一定程度評価された一方で、「小泉 規制緩和」と検索すれば様々な問題の遠因をこの改革に求める意見が並ぶように未だに強い反感を持っている人も少なくない。
現在自民党政権が戻り再び規制緩和を強く推し進めようとしているが、その功罪をネット医薬品販売の例で考えてみる。ネットでの医薬品の販売は最高裁が2013年1月、厚労省が「第1類」、「第2類」の医薬品のネット販売を一律に規制した省令を「改正薬事法の趣旨に適合せず、違法で無効」と判断し、事実上解禁され、その後ルール作りに向けた議論が検討会で進んでいる。これに関して利便性の高まり、特に外出が難しい場合や薬局が遠い地域などにおける利用価値の高さが指摘され、また育毛剤や滋養強壮剤など店頭で買いづらい商品への需要が見込まれるなど規制緩和によるメリットは大きく、アンケートでは8割が利用したいと答えている。一方生命に関わる問題であるため規制緩和には慎重であるべきだと言う意見もあり、アンケートでも多くの不安も同時に見られたという。
このように規制緩和は自由な行動を促進することによって利便性が向上し、多くのメリットを提供するが一方で今まで守ってきた価値にも大きな意味があり、その両者の間で如何にバランスをとっていくのかが問われる。また、ドラッグストアチェーンが判決に対して「慎重かつ冷静」な対応を求め、全面解禁でなく部分解禁を主張しているように、その規制緩和によって不利益を被る集団からの強い反対や所管省庁による抵抗が見られるなど、規制緩和の提案が揺り戻しを受けることも多い。
自民党は「不断の規制改革」を掲げ、積極的な立場を示している。維新の会も「競争力を重視する自由経済」「イノベーションの促進のための徹底した規制改革」を掲げ、規制緩和の姿勢が明確である。みんなの党も規制緩和を経済成長戦略の中心に位置づける。
公明党はほぼ言及が見られず、どちらの立場からも距離をとっているとみられる。民主党は規制の見直しについて触れてはいるが、他の政策と並列でかつ記述も少ない。
生活の党は「過度な規制緩和を見直し、中小・零細企業の育成・再生を図る」と述べており、規制緩和に反対という姿勢をとっている。共産党は解雇規制を強化することを主張し、また経済政策においても規制緩和は主張されない。社民党も解雇規制の強化を主張し、経済政策においても「中小企業への税制・金融サポート」など規制緩和とは異なる手法を多く主張する。