Logo

経済成長戦略

1.ポイント解説

① 規制緩和で産業競争力を取り戻して国際競争に勝たなければ、経済成長はない?

 安倍政権は厳しい国際競争に勝ち抜くために、経済成長戦略の一環としてTPPを含めた経済連携の締結、規制緩和を行うことの重要性を主張する。円高の進行等により主に、製造業で大きく低下していた日本の産業競争力を取り戻すことが、経済成長のための課題であり、「海外展開」していくことで経済成長を実現させることを目指す

 

② 2012年度の貿易赤字は8兆1699億円。外需依存に頼る経済成長は限界なのか。

 自動車や電機製品等の好調な輸出産業を経済成長戦略の中心にしてきた「輸出立国」は危機を迎えている。財務省によれば、2012年度の貿易赤字は8兆1699億円で、これは1980年以降では過去最高の赤字額である。また、年度ベースでの赤字は2011年に続いて2年連続であり、これは第2次オイルショックの影響を受けた1979、80年以来である。さらに、日本貿易会は2013年の貿易収支が6兆7900 億円の赤字となると見込んでおり、依然として厳しい状況が続く可能性が高い。経済成長を取り戻すには、貿易収支の早急な黒字化に加えて、新しい経済成長戦略を考えることが必要である。

2013/4/18 「貿易赤字、12年度は最大の8.1兆円」日本経済新聞より引用

 

③ 規制緩和、自由貿易拡大等により、産業・企業主体の経済成長を実現する可能性。

 グローバル化の進展により市場競争がますます厳しくなる中で、積極的な金融緩和、民営化、法人税等の減税、TPP参加等の自由貿易の拡大を行うことで、企業活動の効率性向上と市場競争を促進して、経済成長を実現する可能性がある。

 

④ 積極的な公共投資により、国民生活重視の経済成長を実現する可能性。

 公共事業等への積極的な公共投資は、物流や人の移動の効率化による生産性の向上や、雇用と所得の拡大によって経済成長を実現する可能性がある。また、公共事業には地方経済を活性化する効果もあると考えられている。近年では、地球温暖化などのグリーン・ニューディール政策と呼ばれる、再生可能エネルギー資源に対して積極的に財政出動を行う政策が注目されている。

 

2.詳しく知りたい人に

 日本は現在、世界第3位のGDPを持つ経済大国だが、長期のデフレーション、リーマン・ショックに端を発する世界同時不況、東日本大震災等の影響等により経済は低成長を続けている。経済の低成長は、すでに日本の経済が成熟しているので成長の余地が少ないため、という見方もある。近年の日本経済の不振は、金融危機以降の円高の進行によって、輸出企業を中心に産業競争力が低下していることにも表れている。三木谷氏は、自身が参加する産業競争力会議の中で、日本が長年に渡って世界をリードしてきた電機業界ではトップメーカーの時価総額が大きく低下していると述べており、指摘によれば、パナソニック・ソニー・東芝・富士通のトップ4社の時価総額は合計720億ドルで、サムスンの1620億ドルの半分にも満たない状況である。(2012年3月20日時点での時価総額)。さらに、少子高齢化による人口減少が今後の経済成長を阻害する要因になる可能性が高く、経団連は日本が2030年にも先進国から脱落し、今日の経済大国としての地位を失うというシミュレーションを発表して危機感を募らせている。

 戦後の日本は製造業の発展と、人口増加に伴って拡大する内需に支えられて経済成長を達成してきた。特に、1960年後半の「いざなぎ景気」では、経済成長への製造業の寄与が46.6%と約半分を占めた。この時期から製造業は輸出産業として成長しており、70年代からは日本の輸出産業を代表する自動車産業の輸出が大きく伸びている。ところが、バブル崩壊以降の不景気の中で製造業は大きく落ち込み、2005年にはGDPにおける製造業の構成比が 21.0%となり、サービス業(同21.5%)を下回った。そうした製造業の不振の背景には「産業の空洞化」と呼ばれる、生産拠点の海外移転や国内事業所の縮小がある。「産業の空洞化」は雇用のパイを縮小させる原因にもなっており、「産業の空洞化」を食い止めながら、雇用を増やす形で産業規模を拡大することが望まれる。

「日本経済の実態と政策の在り方に関するワーキング・グループ」内閣府より引用

 

 また、日本経済の成長を左右する要因としては、内需と外需における依存のバランスがある。内需主導型の経済成長を続けてきた日本は、GDPにおける貿易依存度が先進国内でも低い水準である。しかし、1990年代半ばからの長期的なデフレによって内需が縮小したことで、日本経済は外需への依存を高めることになった。1995~2009年の日本のGDP成長率に対する外需寄与率は26.6%であり、アメリカ(-4.4%)、ドイツ(19.9%)、イギリス(-4.9%)などG7の中で最大となっている。これまで自動車や家電製品などの好調な輸出産業によって日本は貿易で大きな黒字を出してきたが、世界的な不況でEUを中心に輸出が大きく落ち込んだこと、震災後に燃料の輸入が増加したことなどにより、2012年度の貿易収支は8兆円を超える大幅な赤字であった。依然として世界経済の成長が遅いことなどを踏まえると、今後も貿易収支の赤字が続く可能性がある。また、少子高齢化により人口が減少していることなどから内需の縮小傾向も同様に続く可能性が高い。従って、中長期的に内需の拡大を持続することは困難だと考えられるため、適切な内需と外需のバランスを模索する必要がある。

 経済成長戦略としては、金融緩和、規制緩和、自由貿易の拡大等による輸出産業の拡大を中心に外需主導で経済成長を目指す方針と、公共事業・公共投資、雇用対策等によって雇用と所得の拡大を中心に内需主導で経済成長を目指す方針がある。現在、長引くデフレや、世界金融危機からの回復の遅れ、東日本大震災等の影響を受けて日本経済は依然として厳しい状況にあり、また、財政健全化の必要性が高める中で財政出動も慎重にならざるを得ない。そのため、効果的な経済成長戦略によって、デフレからの脱却、経常収支・貿易収支の黒字化、内需/外需の拡大、産業の成長や雇用問題、地方経済の活性化など、様々な課題を達成しなければならない。 

【キーワード】ケインズ理論、ニューディール政策、外需依存、国際収支統計、産業の空洞化、聖域なき構造改革

 

3.各政党スタンス 

① 小さな政府派(みんなの党、維新の会、自民党)

 小さな政府のもとで政府の市場への介入を最小限にとどめて、規制緩和による企業の競争力強化、TPP交渉参加等による自由貿易の拡大、法人税等の減税を行うことで持続的な経済成長を目指す。みんなの党は、名目4%以上の成長と所得を10年間で50%上げる成長戦略を主張する。維新の会は名目成長3%、物価成長率2%の達成と、徹底した競争原理の適用による農業の成長産業化等を掲げる。自民党は名目成長3%、2%の物価目標と、製造業の復活に向けた法整備を掲げる。

 

② 中間派(公明党、民主党、生活の党)

 公明党は金融を中心とする規制緩和と、防災分野での公共投資による需要の創出を掲げる。民主党は名目3% の経済成長、環境・エネルギー産業の育成、農林漁業の3兆円規模への拡大等を主張する。生活の党は規制緩和策の実施とともに、新エネルギー、福祉、農林水産業での積極的な財政出動を主張する。

 

③ 大きな政府派(共産党、社民党)

 大きな政府のもとで政府の市場への介入を強化して、TPP不参加による第一次産業の保護、公共投資の拡大による雇用と内需の拡大等による経済成長を目指す。共産党は規制強化と、260兆円といわれる企業の内部留保を国民生活に還流させることでの経済成長を主張する。社民党は公共投資によって国民の可処分所得を増やして、消費を拡大させることで経済を成長させると主張する。

 

4.リンク集

・日本経済団体連合会「グローバルJAPAN- 2050 年 シミュレーションと総合戦略 -」
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/120416.pdf 
・OECD「日本再生のための政策 OECDの提言」
http://www.oecdtokyo2.org/pdf/theme_pdf/macroeconomics_pdf/2012%2004_Japan_Brochure_JP.pdf
・首相官邸、2013/04/19「安倍総理『成長戦略スピーチ』」
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0419speech.html
・財務省財務総合政策研究所研究部、2012/11/15「貿易・国際収支の構造的変化と日本経済に関する研究会〜問題意識」
http://www.mof.go.jp/pri/research/conference/zk097/zk097_01.pdf
・林宜嗣(2004)、財務省「公共投資と地域経済-道路投資を中心に-」
 http://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list4/r74/r_74_052_064.pdf
・  内閣府政策統括官室(経済財政分析担当)「日本経済2012-2013『厳しい調整の中で活路を求める日本企業』」
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2012/1222nk/keizai2012-2013pdf.html 
・内閣府「日本経済の実態と政策の在り方に関するワーキング・グループ 中間報告参考資料」
 http://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/k-s-kouzou/houkoku/pdf/wg3-sankou.pdf
1 安倍総理、2013/04/19「成長戦略スピーチ」
 http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0419speech.html
2 財務省「平成24年度分貿易統計(速報)の概要」
 http://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/gaiyo2012_4-3.pdf
  日本経済新聞、2012/12/06「13年度は6兆7900億円の貿易赤字に、日本貿易会見通し」
 http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD060CN_W2A201C1TJ0000/
4 三木谷浩史、産業競争力会議「Japan Again」
 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai1/siryou6-9.pdf
5 日本経済団体連合会「グローバルJAPAN- 2050 年 シミュレーションと総合戦略 -」
 http://www.21ppi.org/pdf/thesis/120416.pdf
6 吉川洋、宮川修子、独立行政法人経済産業研究所「産業構造の変化と戦後日本の経済成長」
 http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/09j024.pdf
7 総合研究開発機構、2011/07、「何が日本の経済成長を止めたのか?」
 http://www.nira.or.jp/pdf/1002report.pdf

関連する政治課題

関連記事