IMFは世界経済成長率が2013年で3.3%、2014年で最高4%になり、世界経済は穏やかに成長に向かうと予測する。1しかし、各国の足並みが揃っている訳ではなく、ラガルドIMF専務理事は、<1> 成長を牽引する途上国・新興国 <2> 米国やスウェーデン等、改善途上にある国 <3> EU諸国や日本等、依然として厳しい状況にある国、というように世界経済が三極化していると指摘する。2 世界経済の安定した成長のためには、第三極に位置するEU諸国と日本が早期に経済を立て直す必要がある。
2013年3月に金融危機に陥ったキプロスへの救済策を巡って、EUは再び混乱している。キプロスの経済規模がとても小さいとはいえ、キプロスが救済策なしに財政破綻すればユーロ圏諸国へ飛び火する可能性が高く、ユーロ圏離脱によって周辺国へのリスクを誘発する最悪のケースも無視できない。3特に、緊縮財政への国民の強い不満が政治的な混乱につながっているイタリア4や、2013年の経済成長がマイナス4.5%と予測され、さらにキプロス・ショックによりGDPが最大で1%失われると懸念されているギリシャ5など、今後もEUには深刻な課題が山積している。今後もEUの経済不振が続くことで世界経済及び、日本経済にも大きな影響が生じると考えられる。
未だに危機の影響を引きずる先進諸国に代わり、堅調な消費者需要とマクロ経済政策の成功で世界経済危機を乗り越えた新興国と途上国・地域が今後の世界経済を牽引する。IMFは、新興国・途上国の経済成長が2012 年の約5%から、2013年に5.25%、14年には5.75%に達すると予測する。1
日本は、少子高齢化に伴う人口減少によって内需が縮小傾向にあり、世界をリードする製造業等の輸出産業が今後の経済成長を実現するカギである。従って、規制緩和と貿易自由化、産業競争力の強化等により、グローバル市場における競争を勝ち抜くことで経済成長を実現する可能性がある。
世界経済危機による被害を特に大きく受けたのは、日本やドイツなどの経済成長に占める外需依存度の高い国であった。外需に依存した経済成長はリスクが高いため、公共投資や規制強化等の政策により、所得、雇用の拡大に伴う内需の活性化を目指すことで、安定した経済成長を実現する可能性がある。
世界経済危機とは、アメリカで2007年に起きたサブプライム問題、リーマン・ショックによる世界的な金融危機を原因として、世界中で同時期に発生した深刻な経済不況を指す。世界の貿易量の推移を見ても、リーマン・ショック発生後の2009年に貿易量が劇的に減少していることが分かる。2013年現在、途上国・新興国は順調な経済成長を実現していて、アメリカやスウェーデン、スイスといった国々は経済を立て直そうとしている。しかし、EU諸国や日本などでは経済回復が大きく遅れている現状がある。2
キプロス・ショックで金融危機が再燃しているユーロ圏では、一部の国が財政再建のための緊縮策を加速させたこと、ドイツ以外で失業率が大きく上昇したこと、金融機関の資金調達環境が悪化したこと等により需要が低迷して実体経済を下押ししている。ポイント解説で述べたイタリア、ギリシャ、キプロス以外にも、2012年の財政赤字が対GDP比10.6%でEUが予測した10.2%を上回ったスペイン6や、13年予算の53億ユーロ規模の緊縮策のうち、9億~13億ユーロ分を占める公務員の給与削減や年金減額を実施する政策が憲法裁判所により違憲判決を受けたポルトガル7など、財政破綻のリスクも含めて深刻な状況を脱することが未だ出来ていない国が多く存在する。
一方、日本では金融危機の発生直後、サブプライムローンにあまり手を出していなかったため、金融危機による損害は限定的だと考えられていた。しかし、日本を安全逃避先と考えた投資家が円買いに流れたことから、その後、2011年秋には75円台という歴史的な水準まで円高が進行して、輸出による外需依存を強めていた日本経済は大きな打撃を受けた。例えば、日本を代表する輸出企業の一つであるトヨタは、ピーク時の時価総額が約30兆円(2007年)であったが、2013年4月現在では時価総額を約18兆円に落としている。
最近の円安の影響により業績改善が見込まれるとはいえ、トヨタを始めとする多くの輸出企業は未だに経済危機以前の業績を取り戻すことが出来ていない。しかし、2008年以降のトヨタの地域別売上高を見ると、日本・北米・欧州市場での売上高は経済危機以降に減少しているが、アジア市場は経済危機の影響が少なく、むしろ2008年度より売上高を伸ばしていることが分かる。8 こうした現状を踏まえると、日本の輸出産業の成長は今後、回復の遅い北米・欧州市場から、拡大するアジア・新興国市場へシフトしていくことで達成できる可能性がある。また、景気を下支えする内需の役割は大きく、内需の拡大も同様に重要な政策課題である。外需主導の経済成長を続けてきたドイツは世界経済危機以降、所得に占める家計債務比率の低下や失業率の低下を背景にした住宅建築の増加など、内需の増加によって経済を持ち直している。9 日本も同様に、2012年は個人消費等の内需が外需のマイナス分を補うことで景気を支えた。10 今後も、東北大震災の復興需要の拡大等を受けて、内需を維持・拡大が経済成長を支えていくことが重要である。
世界経済危機以降、EU諸国や日本を筆頭に、先進国では経済不況が続いている一方、アジアなどの新興国は5%という高い成長率を取り戻すと共に、消費支出の伸び率でも先進国を大きく上回っている。今後も、新興国の高成長が世界経済全体の成長を牽引するだろう。
また、先進国でも経済危機を脱するための新しい取り組みが生まれている。複数の債務危機を抱えるユーロ圏は、欧州の金融安定を支えるためにECB(欧州中央銀行)を中心とする銀行監督の一元化を2014年から開始することを決定した。11 日本でも、アベノミクスによって経済成長を取り戻すことが期待されている。危機からの脱出と成長に向けた努力を各国が実施することで初めて、世界経済危機を克服することができる。
小さな政府のもとで政府の市場への介入を最小限にとどめて、規制緩和による企業の競争力強化、TPP参加等による自由貿易の拡大、法人税等の減税を行うことで輸出産業が主導する形での経済成長を目指す。みんなの党は従来の輸出産業に加えて鉄道、流通、飲食等の輸出産業化を掲げる。維新の会も医療・福祉・保育等の分野での自由化を掲げる。自民党は製造業の復活、インフラ輸出、クールジャパンの国際展開等を掲げる。
外需と内需のバランスの良い拡大を目指す。公明党は基本的には自民党の方針に賛成しているが、グリーン・ニューディール等の需要創出策の実施を掲げる。民主党は、国益の確保を前提とした上でのTPP、日中韓FTA、東アジア地域包括的経済連携の締結を検討すると主張する。生活の党はTPPには反対だが、FTA・EPAの積極的な推進を掲げる。
大きな政府のもとで政府の市場への介入を強化して、TPP不参加による第一次産業の保護、積極的な公共投資によって内需拡大による経済成長を重視する。共産党は消費税増税中止等によって国民の所得を増やして、内需を活発にすることを主張する。社民党は一次産業の保護、食の安全等の観点から自由貿易拡大に反対して、財政出動による内需の拡大を主張する。